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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
97/232

#090「辛党」【松子】

#090「辛党」【松子】


 今日は建国記念の日。私は今、以前スポーツタオルを買ったショッピングモールに来ている。今度のバレンタインに渡すチョコレートを買うためだ。

「松子ちゃん、でしょう」

 後ろから声を掛けられた松子は、足を止めて振り返り、自分に向けて片手を挙げている人物に注目する。

「あぁ、どうも。たしか、伊東さんとおっしゃいましたよね」

「覚えててくれたのね。でも、名前で呼んで欲しいところだわ」

 えーっと。あれ。フルネームが出てこない。

「何とお呼びしましょうか」

「硬いわね。シズシズでも、静ちゃんでも、好きに呼んで良いのに」

 あぁ、思い出した。

「それでは、静香さんで」

「まだ距離を感じるけど、まっ、いいか。あれから、坂口くんとは順調なの」

「はい。今日も、その坂口さんに渡すチョコレートを買いに来たんです」

「あぁ、そうなんだ。私も、潤也くんにあげるチョコレートを買いに来たの。一緒に見て回りましょうよ。お互い、職場での様子を情報交換しながらね」

 なるほど。たしかに、小学校での坂口さんのことを知っておくのは、選ぶ上で参考になるかもしれない。

「悪くないですね。そうしましょう」

 壁面に掲示されたポスターを指差しながら、伊東は興奮気味に、松子へ話しかける。

「ねぇねぇ、ここを見て。洋酒が効いたチョコレートなんて、どうかしら。ラム酒に漬けたレーズンが入ってるそうよ」

 他にも、コニャックやバーボン、スコッチを使ったチョコレートもあるのか。買うかどうかは、さておき。試食してみたいところね。

  *

「結局、ウォッカの効いたチョコレートに落ち着いたんですね」

 チョコレートを一つ口に含みながら、坂口は松子と歓談している。

「そうなんです。一度に食べ過ぎないでくださいね」

「鼻血が止らなくなるからですか」

「酔っ払って前後不覚にならないようにです」

「心得ました。しかし、これを三倍にして返すとなると、ウォッカの原液を贈るしか無さそうですね」

「アルコール度数を三倍にしないでくださいよ。それから、私は利殖を望んでませんから。もし、ホワイトデーにお返しされるとしても、だいたい同じくらいだろうという感じるもので結構です」

「承知しました。何が良いか、これから一ヶ月のあいだに、よく考えてみます」

「そうしてください。でも、無理しないでくださいね。たとえ貰えなかったとしても、それを咎め立てしたり、落ち込んだりすることはありませんから」

「ストップ。また逃げ道を作ってますよ、松子さん。リスクヘッジは、ほどほどにしましょうね」

「はい、ごめんなさい」

 あとで落胆しないように前もって期待しない癖は、相手に失礼だから直さないとね。

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