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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#084「一休み」【万里】

#084「一休み」【万里】


 学習指導要領や受験制度がコロコロ変わると、高校生や浪人生は多大な迷惑を被る。旧カリキュラムや旧制度に合わせて行なってきた努力が水の泡になるとなれば、真面目にコツコツするのが馬鹿らしくなることだろう。

 ダイニングでタオルを畳みながら、万里はリビングにいる松子と竹美の会話に耳を傾けている。

「マークシートだけじゃなくて筆記試験を追加しようとか、民間試験を併用しようとか、大学入試は、共通で一次試験をする意味が無くなるような路線になってきてるわね」

 リビングのソファーで新聞を広げながら、松子が竹美に話しかけた。

「生きた英語力を測るのは結構だけど、大学に入ってすぐ必要になるのは、英語の新聞や論文を読み解く力なのに。会話力が必要になるのは、就職してからよ。――あぁ、ここは五番なんだ」

 竹美は問題と解答が載ってる紙面を並べ、自己採点している。

「そうよね。留学する学生なんて、まだまだ少数派だもんね。――リスニングでトラブル。プレイヤー故障で再試験」

「また壊れたんだ。受験料が高くなるし、試験時間が長引くだけから、はっきり言って無駄なのに。――ここは二番が正解なのか。四番は、何が違うのかしら」

「今、何問目」

 松子は新聞を畳んでローテーブルに置き、竹美の側に寄って紙面を覗き込む。

 あらあら。一分間で十二問のクイズが出題される番組と同じようなことを聞くわね、松子。正解数が五問以下だと竜巻に遭うわよ、竹美。あっ、いけない。もうすぐパートに出なくちゃ。

 万里は畳み終わったあと時計を見て立ち上がり、タオルを持って足早に洗面所のほうへ向かった。

  *

「私と向こうの奥さんは乗り気なんだけど、肝心の娘の気持ちがハッキリしないのよ」

 休憩室で昆布茶を啜りながら、万里は伊丹の話を聞くともなしに聞いている。

「ハッキリしないって、房枝ちゃんへ聞いてないんですか」

「聞いたわよ。だけど、承知したんだかしないんだか、煮え切らない返事でね。まったく、何を迷ってるんだか」

 そりゃあ、悩むわよ。急かしちゃ駄目だわ。

「歓談中、失礼。先日の件で、一言伝えておきたくて」

 二人が話してる背後から、白いの作業服姿の男が声を掛けた。

「あら、小林さん」

「噂をすれば影ね。それで、小林くんのほうはどうなのよ」

「お嬢さんさえよろしければ、こちらは縁談を受け入れます。そう、お伝えください。それでは、僕は、これで」

 早口に述べると、小林は踵を返してカツカツと靴音を鳴らしながら立ち去った。

「うまく、まとまりそうですね」

「だと良いんだけど。あとは、房枝の気持ち一つね」 

 慌てないことね。きっと本人は、自分の気持ちが分からなくて困ってるだろうから。筆者の気持ちと違って、選択肢をマークすれば良いって訳にはいかないもの。

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