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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#077「お出掛け前」【安奈】

#077「お出掛け前」【安奈】


「いけません、お嬢さま。今日も普段着ではなく、晴れ着をお召しください」

「嫌よ、真白。動きにくいし、肩が凝るわ。出かける直前まで、このままで居させてよ。何も、パジャマでうろついてる訳じゃないんだから、ちょっとくらい良いじゃない」

 セーターに厚手のスカートを穿いた安奈が、朝から真白と火花を散らしている。

「お嬢さま。そうやって着替えずに出掛けようとする作戦は、青葉には通じても私には通じません」

 あっ、ばれたか。しっかり者だと、こういうとき隙が無くて困っちゃうわ。

 何か口実はないかと考えあぐねていると、安奈は、ワンピースにカーディガンを羽織って廊下を歩く作楽の姿を、視線の端に捉えた。

 グッドタイミング。ターゲット、ロックオン。

「おはよう、作楽ちゃん」

 安奈は廊下に駆け出し、作楽に挨拶をした。その安奈を、真白はスカートの裾を持ち上げて追いかける。

「お待ちなさい、お嬢さま。話は、まだ終わっていません」

  *

「パパは、どこ」

 作楽は寝惚け眼で、安奈に向かって質問した。

「ゲストルームに居なかったのね。――作楽ちゃんのお父さんは、今、何してるの、真白」

「康成さまなら、旦那さまと離れでお話されています。込み入った話ですので、しばらく誰も入れないようにとのことです」

「そう。困ったわね。――今日は冷えるから、前を留めたほうが良いわよ、作楽ちゃん」

 安奈がカーディガンを指差すと、作楽はもじもじとしながら、小声で言う。

「ボタンがたくさんあると駄目なの。いつも間違えちゃって、お家でもママに怒られた」

 掛け違っちゃうのね。それで、お母さんは手伝ってくれないから、お父さんを探す癖がついたと。フムフム。

「では、作楽さま。腕を横に広げてください。着せますから」

 真白が作楽の前にしゃがみ込み、作楽のカーディガンに手を伸ばすと、安奈が割って入る。

「待って、真白。私がやりたい」

「お嬢さま。こういうことは、使用人の役目です」

「いいの。作楽ちゃんの面倒は、私が見たいのよ。下がりなさい、真白」 

「はっ。それでは、後ほど晴れ着を持って呼びに参ります」

 安奈がピシャリと言い放つと、真白は渋々といった様子でその場を離れた。

「ごめんなさい。私が、ちゃんと出来ないから」

「良いのよ。作楽ちゃんは、まだ五歳なんだから」

 安奈はカーディガンのボタンをはめながら、努めて陽気に振舞って作楽を励ます。

 出来ないことを責めないで、出来るまでお世話してあげなきゃ駄目なのに。無責任な親だわ。

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