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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#076「そうなのか」【小梅】

#076「そうなのか」【小梅】


 ディベートが白熱して論点がずれていくことは、よくあることだけど、何でこうなっちゃったんだろう。松上彰子のニュース用語解説が始まってしまった。

 リビングのテーブルでは、松子が安奈に向かって真面目な顔で語りかけ、時々安奈が質問を返している。その様子を、小梅はソファーに座り、気だるげに観察している。

「私が外国で、安奈ちゃんが自国だとするわね。いま、安奈ちゃんの手元には丸餅が六個あって、私の手元には蜜柑が二つあるとします」

 そう言うと、松子は自分の前に二つの蜜柑を、安奈の前に丸餅を六個置いた。

「ここではお互い、その全部を交換したいと考えているとします。蜜柑一つに対して、安奈ちゃんは丸餅を何個まで交換しますか」

「三個までなら、交換しても良いです」

「そうでしょう。これが、為替相場。相場のことはレートとも言うわ」

 小学生相手に円高について解説するなんて、どうかしてるわ。真剣に聞くほうも聞くほうだけど。

「今は、一蜜柑三丸餅で取引が成立してる状態なんだけど、ここまでは良いかしら」

「はい。ここから、どうなれば丸餅が高くなるのですか」

「良い質問ね。それには、二つの変化が考えられるの。一つは、私の持ってる蜜柑が増えた場合。もう一つは、安奈ちゃんが持ってる丸餅が減った場合よ」

 そう言うと、松子は自分の前にもう一つ、蜜柑を置いた。

「さぁ、蜜柑が三つに増えました。安奈ちゃんは、蜜柑一つに対して丸餅を何個まで交換しますか」

「二個なら、交換します」

「はい、そうしましょう。それでは、今度は蜜柑を戻して、丸餅を減らします」

 そう言うと、松子は自分の前にある蜜柑を一つと、安奈の前にある丸餅を二個、脇に移動させた。

「さて、今度は丸餅が四個になりましたね。何個ずつで交換しましょう」

「この場合も、蜜柑一つに丸餅二個が良いと思います」

「そうね。こうして、蜜柑一つに対して、交換する丸餅が三個から二個になった状態が、蜜柑安丸餅高なの」

「待ってください。丸餅の数が減ってるのに、丸餅高なんですか」

「そうそう。そこのところを、ちょっとだけ補足するわね。あくまで、高くなったかどうかは価値の話なのよ。それで、その価値の計りかたなんだけど、蜜柑一つあたりじゃなくて、丸餅一個あたりで考えて欲しいの」

「それは、つまり、丸餅一個で蜜柑が幾つ交換できるかってことですか」

「そういうこと。理解が早くて助かるわ」

 えっ。どういうことなのか、さっぱり理解できないんだけど。小学生より劣ってるのかしら、私の脳は。あとで竹姉にも聞いてみよう。小豆は煮えてるけど、お餅は焼けたかな。

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