表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
81/232

#074「元日」【松子】

#074「元日」【松子】


「松姉ちゃん、これ、開けられる」

「どれどれ。ちょっと貸してみて」

 松子は寿からフルーツゼリーを受け取った。

 大柄な人間が多い鶴岡家とは正反対で、亀山家は小柄な人間が多い。大柄な恵子伯母さんは、同じく大柄な私に同情し、小柄なお母さんや竹美を羨ましがる。固く閉まったビンの蓋が開かないとか、高いところに手が届かないとか、非力をアピールすることで可愛がられる機会が無いからだという。

 そんな伯母さんの意見に、私は同意しかねる。缶のプルトップだろうと、ペットボトルのスクリューキャップだろうと、スナック菓子の袋だろうと、自分一人で開けられるなら、それに越したこと無いのに。

 松子は中身が飛び出ないよう慎重を期しつつ、ゆっくりとプラスチックカップの口に貼られたフィルムを開け、寿に手渡した。

「わぁ、開いた。ありがとう」

「松姉、私のもお願い。こっちも固いの」

「ついでに、私のも」

 寿と入れ替わりで、竹美と小梅が松子にフルーツゼリーを渡す。

「はいはい。開けてあげるから、そこに置いておいてちょうだい」

 輸送途中に中身が零れないようにという配慮なんだろうけど、開封するときのことも考えて欲しいわね。頼りにされるのは悪くないけど、こんなかたちで怪力をアピールしても、何のメリットにもならないわ。

  *

「もしもし、松子です」

「アローハー。ハッピーニューイヤー、松子」

 午後七時過ぎ、十九時間遅れで新年を迎えたハワイからの国際電話で、ご機嫌な声が聞こえてきた。電話口の向こうでは、年明けを寿ぐ陽気な歓声が溢れている。

「明けましておめでとうございます、お婆ちゃん。もの凄い盛り上がりですね」

「そりゃそうよ。さっきまで、カウントダウンしてたんだもの。ビュッフェでシェフの料理を堪能しながらディナーショーを楽しんだり、クルーザーに乗って海に上がる花火を見物したり、年に一度のイベントを大いに遊び倒してるの」

 それは結構なことで。

「ところで、さっきから名前を呼ばれてるみたいですけど」 

「あぁ、それはジョージよ。このツアーの現地ガイドをしてくれている学生さん。換わってあげようか」

 咄嗟に絵本の小猿が浮かんだけど、きっと違うわね。

「いいえ、結構です。それで、他に用件は」

「硬いわね、松子は。まぁ、いまは特に無いわね。また何かあったら電話するわ。バーイ」

「ごきげんよう」

 松子が受話器を置いたタイミングで、万里が玄関のほうから姿を現した。

「通話、終わったのね。そしたら、ちょっと、こっちに来てちょうだい。蜜柑の段ボール箱を逆さにして、底から開けて欲しいのよ」

 この家に男手がないばかりに、力仕事はすべて私に集中する。正月休みくらい、誰かに代わって欲しいわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ