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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#073「新春」【万里】

#073「新春」【万里】


 戌年の初日はあいにくの曇り空で、苔生した石段を登って朱塗りの剥げた鳥居を潜る初詣客は、それほど多くない。ここは、地元でもあまり知られていない、穴場の神社なのである。

 境内から続く石畳の端を、万里は寿の手を引いて歩いている。

「何でお賽銭は五円玉なの」

「良いご縁がありますように、という語呂合わせよ」

「ふーん。神さまは、駄洒落好きなんだね」 

 上に吊るしてある鈴は本坪鈴、そこから垂れ下がっているこの紐は鈴緒と言うそうです。耳の遠い神様にもよく聞こえるように、いい音を鳴らしましょう。結婚して初めてこの神社に来たとき、博さんにそう言われたのを、あれから、もう三十年近く経つ今でも良く覚えている。それから、そのとき願った内容も。

「寿くんは、神さまに何をお願いしたの」

「お父さんの骨折が、早く治りますように。早く元気になって欲しいから」

 まぁ、感心だこと。あんなチャランポランな父親から、どうしてこんな素直で親孝行な良い子が育ったのかしら。遺伝子組み換えか、はたまた突然変異か。

「きっと寿くんのおかげで、退院が早まるわ」

「そうだったら良いな。それと、もっと足が速くなるようにって」

 あら、可愛らしい。徒競走がブービーだったことを、まだ気にしてるのかしら。小中学生は発育のばらつきが大きいから、誕生日や両親の体格差が結果に如実に反映されるのよね。誠も走るのが遅かったっけ。

「それも叶うと良いわね」

「うん。もうちょっとしたらマラソン大会があるから、それまでにいっぱい走って、少しでも早くゴールできるように頑張るんだ」

 そっか。今月の中旬には、かごめ川の河川敷を往復するのか。たしか小梅は、いつも途中で棄権してたのよね。無事に完走できると良いんだけど。

  *

 リビングで雑煮を頬張りながら、それぞれ別々の寺社から帰ってきた松子と竹美が、ダイニングで年賀状を仕分けながら万里が話す寿の話に興味を示している。

「なるほど、菰を巻いてる木が関脇で、お酒の酒樽が大関、御神木が横綱か。小学生の発想は、柔軟で面白いわね」

「文学的な感受性を産道に置いてきたものね、お姉ちゃん」

「黙らっしゃい。簀巻きにして、橋の上からかごめ川に抛り投げるわよ」

「私刑反対。私は蒲鉾じゃないわ」

 輪郭が凸凹になっている蒲鉾を祝い箸でつまみあげてみせながら、竹美は松子に反論した。

 綺麗に落ちが付いたわね。正月から縁起の良いこと。


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