#006「女と子の会」【万里】
#006「女と子の会」【万里】
三人とも、いったい誰に似たのかしら。とても私と博さんの子だとは思えないわ。
「会社員以外にも若い女性の姿が目立つわね、松姉」
「そうね、小梅。レディースデーだけあるわ」
「こういう日でなきゃ、そうそう足を運ばないもんね」
向かいの席に座る三姉妹の会話を聞いていた万里であったが、ふと隣に視線を移した。
「焼き鳥、焼き鳥、ルンルルン」
寿は上機嫌で指揮者のようにボールペンを振り回していた。
「寿くん、すっかりご機嫌ね」
菩薩のような微笑みを浮かべる万里。
松子や竹美にも、こんな可愛いらしい頃があったのよねぇ。すっかり現実的になっちゃったけど。
「ぼんじりってどこだっけ」
「尻尾の脂肪よ」
「じゃあ、せせりは」
「たしか、喉の両端にある筋肉」
「松姉ちゃん、何でも知ってるね」
五人が注文票に正の字を書いていると、店員が両手に飲み物を抱えてやってきた。
「メロンソーダ、ジンジャーエールと、生三つ、おまちどー」
寿の前にメロンソーダ、小梅の前にジンジャーエール、あとの三人の前にビールを置いていく。
「ご注文はお決まりっすか」
「とりあえず、これで良いわね、寿くん。――そっちは、決まったかしら」
「良いよ」
「こっちも、これで」
「そいじゃ、確認しやす。つくね、うずら、ささみと、ねぎま、砂肝、軟骨。ご注文は以上っすか」
竹美が手を挙げ、大声で付け足す。
「あと、チャンジャと冷奴も」
「へい、チャンジャ、冷奴追加で。――いらっしゃーせー、どうぞ」
店員は、書き加えた注文票をボールペンもろとも前垂れにねじこむと、厨房の奥へと消えた。
*
「小梅。乙女ゲームと少女マンガに溺れて次元の違う彼氏に夢中になるのは結構だけど、三次元に見切りをつけること無いじゃない」
「あら。竹姉だって、見た目は良いけど、性格や品行が駄目なクズに惚れてしまうくせに。美容師、バーテンダーと来て、今はバンドマンでしょう」
「そうそう。いくら三次元でも、交際相手は選ばないと」
「お姉ちゃんに言われたくないわ。責任感が強くて頼りになるけど、女子力が低すぎて男性から異性として認識されてないじゃない。言っとくけど、焼き鳥屋で開口一番にとりあえず生ビールと言ってしまう時点で、立派なおっさんだからね」
三人で話し合うと、別に男が居なくても生きていけるという極論に落ち着いてしまうのよね。呆れて物が言えないわ。
「クリームあんみつは美味しい、寿くん」
「うん。甘くて冷たくて美味しいよ」
これぞ、砂漠のオアシス。三人も、これくらい素直だったら良いのに。
「サングリア、カルーアミルク、ピーチフィズ、おまち。以上で、よろしいっすか」
松子が手を挙げ、よく通る声で注文する。
「追加でチーズ芋餅と卵雑炊、それからオレンジジュースと烏龍茶をお願いします」
「チーズ芋餅、卵雑炊、オレンジジュース、烏龍茶っすね。――へい、らっしゃっせー」
店員は二、三メモすると、再び厨房の奥へと進んだ。
何にせよ、今日のところは、そろそろお開きね。