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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
66/232

#065「朝まだき」【松子】

#065「朝まだき」【松子】


 今朝は、ホワイトクリスマスになったのね。

 あけぼの、窓の外には粉雪がちらついてる。起き上がった松子はカーテンを開け、ロフトで掛け布団に包まって寝ている坂口の姿を認めた。

 あらぬ誤解を招かぬよう、一緒に寝なかったわけか。敷きパッド無しじゃ固いだろうに。

 鞄から携帯を取り出し、開いて時間を確かめる松子。

 六時ちょっと前。いつもの坂口さんなら、とっくにジョギングに出かけてるんだろうけど、昨夜は遅くまで起きてたから、きっと疲れてるだろうな。もう少し、このまま眠らせといてあげよう。そのあいだにシャワーを借りて、上がったら冷蔵庫と相談して、何か軽い食事を作ろう。それくらいしなきゃね。 

 松子は敷きパッドと毛布を畳んで部屋の隅に置くと、ロフトベッドの端に立てかけてあったローテーブルを引っ張り出して広げ、ハンドバッグを持ってユニットバスに入った。

  *

 トーストとインスタントコーヒー、それから豆腐と玉葱の味噌汁という和洋折衷なモーニングを食べながら、松子と坂口は、それぞれの高校時代の思い出話に花を咲かせている。松子の味噌汁はお椀ではなくマグカップに入れられており、坂口のトーストは昨日の絵皿に乗っている。

「松子さんが市立東だったとは意外だな。てっきり、月花かと」

「月花の出なら、もっとお淑やかに育ってますよ。そういう坂口さんは、星雪舎だったんですね。スポーツの強豪校ですけど、何か運動部に所属してたんですか」

「えぇ。高校、大学と、ラグビー部に入っていました。高校のときの顧問の先生は三年間僕の担任教員で、公私共に色々お世話になったんですよ。ただ、ちょっと意地の悪いところもあって」

「してやられたって顔ですね。何かされたんですか」

「朝からするには、いささか下世話な話なんですけどね。その監督は、男子高校生のスケベ心を悪用してトラウマを植え付ける鬼でしてね。合宿の夜、悶々と寝付けない俺たち部員に、美女のシャワーシーンがあると言ってラベルの無いビデオを渡すんです。ホイホイと釣られ観たら、終わったあとに違う意味で眠れなくなっちゃって」

「何が録画されてたんですか」

「ホラー映画ですよ。『サイコ』」

「まぁ。たしかに、監督の言うことに嘘偽りは無いけれど、ひどいことをするわね。――ごちそうさま」

 食べ終わった松子が箸を置くと、ほぼ同時に坂口も食べ終わった。

「練習後にシャワーを浴びることを分かった上ですからね。性質が悪いですよ。――ごちそうさま。美味しかったですよ」

「おそまつさま。ごめんなさいね、勝手に泊り込んでしまった上に、キッチンやユニットバスを拝借して」

「いいえ。小麦の焼ける香ばしい匂いで目が覚めたら、朝食が用意されてるんですからね。至れり尽くせりですよ。それじゃあ、少し早いですけど、そろそろ出勤しましょうか。使った食器は、洗い籠に漬けて置いてください」

「わかりました。それじゃあ、そろそろ出ましょうか」 

 二人は各々の食器を持って立ち上がり、水を張った洗い籠に漬けると、それそれ仕事に向かう支度を始めた。

 行きの電車の中で、お母さんに一報入れておこう。あの妄想狂に邪推される前に、真実を伝えておかなければ。

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