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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
65/232

#064「はったり」【長一】

※永井の元カノと長一の会話です。

※番外編に近い話で、ややシリアスな展開ですので、不快感を覚えたかたは、読み進めずに#065へ移ることを推奨します。


#064「はったり」【長一】


 さーて。次郎たちは、家に帰ってきてるかな。

 永井と竹美が二人きりでねずみ王国を満喫してる頃、長一は風華と中原を送り届け、永井の家へ冷やかし半分で様子を見に来ていた。

 あれれ。あの女の子は、もしかすると、もしかするのかな。そういえば、竜介くんが何か言ってたような。

 長一が表門を潜ると、玄関先に髪をお団子にして、エスニック調のエイラインワンピースにもこもこしたボア生地のコートを羽織った女がへたり込んでいた。長一が近付くと、女は足音に気付いて立ち上がった。

「何だ。次郎じゃないのか」

 落胆した表情を見せる女に対し、長一はへらへらした表情で返事をする。

「残念でした。永井は永井でも、兄の長一です。僕に次郎のことを聞くってことは、まだ次郎は帰って来てないんだね」

 良かった。この子と竹美ちゃんが鉢合わせしたら、とんでもない修羅場になること間違い無しだ。

「そうよ。かれこれ二時間近く待ってるんだけど、どこに居るか知ってるなら教えてくれないかしら」

 それが他人様に教えを請う口の聞きかただろうか。呆れて、注意する気にもならないや。

 長一を睨みつけ、刺々しい物の言いかたをする女。それに対し、長一はあくまで暢気な調子のまま答える。

「行き先に心当たりはあるけど、君には教えられないな。だって君、次郎が自分以外の女性と親しくしてると、誰であろうと嫉妬するでしょう」

 遠慮のない長一の発言に、女はキッと唇を噛み締め、視線を逸らして続ける。

「その子も可哀想ね。次郎にとって、女はガムと同じなのに。噛んで味わったら捨てるだけ」

 竹美ちゃんと出会ってからの次郎を知らないなら、そう思うのも無理ないか。

「捨てられたガムにへばりつかれるのは、次郎だって迷惑だよ」

「私は、他の女とは違うわ」

 そう言うと、女は再度、長一を睨みつける。

「同じだよ。都合の良いときだけ頼って、面倒になったら姿を眩ますんでしょう。それじゃあ、今の彼女には勝てないよ。次郎は彼女に出会ってから大きく変わったんだ。二人の仲は、今までみたいな一夜限りの付き合いで終わらないよ」

「あら、改心したつもり。その女が次郎をどう言いくるめたのか知らないけど、飽きっぽい彼が、いつまで保つかしらね」

「過去は、ともかく。これ以上、次郎に付きまとうようなら」

 長一は、一旦言葉を区切った。

「付きまとうようなら、何なのよ。警察か弁護士でも呼ぶつもりなの。そんなことして事を荒立てて波風を起こすのを嫌うくせに」

「警察は呼ばない。弁護士にも頼らない。だけど、僕たちの幸せをぶち壊すなら、僕には考えがある。いいから、大人しく次郎から手を引くんだ。これは、最後通牒だ」

 長一は笑みを消して真顔になると、女を睨み返した。二人のあいだに数十秒ほど緊迫した空気が流れたあと、女は大きな溜め息を一つ吐くと、長一に一言だけ告げて立ち去った。

「良いでしょう。もう金輪際、次郎の前に姿を見せないわ。せいぜい、お幸せに」

 女が立ち去ったのを確認すると、長一はその場に膝から崩れ落ちた。

 あぁ、怖かった。でも、これで次郎と竹美ちゃんは守れただろう。一安心、一安心。

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