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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
63/232

#062「舞台裏」【万里】

#062「舞台裏」【万里】


 安奈ちゃんに誘われた寿くんの付き添いで行ったクリスマス発表会の途中、寿くんを観客席の目黒さんに預けてお手洗いに立ったんだけど、その帰りにシリアスな場面に遭遇したの。

 安奈と少女が通路の壁際に並んで立っているのを、万里はどこぞの家政婦よろしく壁際からそっと観察している。

「パパとママに聴いて欲しくて、いっぱい練習したのに」

 目元を潤ませながら、盛装した少女は、くぐもった涙声で言った。

 あの女の子、どことなく寿くんに雰囲気が似てるわね。誰かしら。

「そうね、作楽ちゃん。せっかく一生懸命努力したんだものね」

 安奈は作楽の背中に手を置き、そっと励ました。

 安奈ちゃんも、内心は緊張して余裕が無いでしょうに。お姉さんとして、気丈に振舞ってるのね。

「初めて間違えずに弾けたのに、パパもママも聴いてくれなかった」

 作楽は両手を目元にあて、とうとう泣き出してしまう。

 あぁ、なるほど。発表が終わったあと、観客席に作楽ちゃんのご両親の姿が無かったのね。お仕事が忙しいのかしら。

 安奈は素早くハンカチを手渡すと、再度作楽に声を掛ける。

「擦ると腫れるから、これで押さえてね。――まだ連弾が残ってるんだから、落ち込むのは早いわ。一緒に頑張りましょう。ひょっとしたら、ここで待ってるあいだに来てるかもしれないじゃない」

 作楽は渡されたハンカチで涙を拭って安奈に返すと、泣くのをやめた。

「うん。作楽、頑張る」 

「その調子よ。それじゃあ、舞台袖のほうへ移動しましょうね」

 安奈は作楽の手を引き、廊下を誘導して歩いていった。

  *

「息がピッタリだったね、安奈ちゃんたち。とっても良かったよ」

「ありがとう、寿くん。私、すごく嬉しいわ」

 リビングでお菓子を食べながら話す二人とは別に、目黒と万里は、キッチンで全く違うことを話し込んでいた。

「寿さまは、サンタクロースは実在すると思っていらっしゃるのですね」

「そうなんです。煙突は無くても良い子にして枕元に靴下を吊るしておけば、寝てるあいだに必ずやってくると思ってるようで。安奈ちゃんは、どうですか」

「私が変装していることに薄々勘付きながらも、あえて騙されてるふりをしている節があるように思われます。なので今年からこちらは、見習いの赤城に任せることにいたしました」

 そういうものか。松子も幼稚園の頃には、博さんの変装を見抜いちゃってたものね。年齢に合わずませてるところは、どちらも同じだわ。

「そうですか」

「純粋に信じてるにせよ、疑っているにせよ、少年の夢を壊さぬことは、堅くお約束いたします」

「すみませんね、変なことをお願いして。それじゃあ、頼みますね」

「承知いたしました。では、夜が更けましたら、再度お邪魔させていただきます」

 ふふふ。今夜が楽しみだわ。明日の朝、寿くんはどんな反応を見せてくれるかしら。


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