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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#061「爆発」【竹美】

#061「爆発」【竹美】


 今の恋人が将来の相手かどうかは、ロマンスの神様も与り知らない。

 竹美と永井は、人混みの中で手を繋いで歩いている。辺りは一面、イルミネーションで目映いばかりの光の洪水になっている。

「まったく。風華もリュースケも、到着早々、酒に弱いくせにホットワインの試飲に引っ掛かりやがって。兄貴は、二人と一緒に電車で帰ってしまったし。俺が運転して帰らなきゃいけないじゃないか」

 永井は眉根を寄せ、不快感を顕わにした。

 私たちが居るのは、印旛沼ねずみ王国。リア充撲滅を標榜するだけあって、今日と明日は、男女カップルは特別割増料金で、お一人様や同性グループは割引ありになっている。だから、私と風華は鉄路で、長一さんと先輩二人は道路で、わざわざ二手に分かれて入場したの。だけど三人は、永井先輩の言う通り、とんぼ返りしてしまったの。

「長一さんも無責任ですね」

 二人がエヌ極なら僕がエス極になるよだとか、二人がお似合いなのは僕が保証するよだとか、次郎の呪符を剥がせるのは竹美ちゃんだけだとか何とか、調子の良いことを言ってたのに。肝心な場面で頼りにならないんだから。だいたい、永井先輩のどこに、そんな物騒なラベルが貼ってあるっていうのよ。

「まったくだ。人混みは嫌いだというのに無理矢理連れ出されたかと思えば、自分はさっさと退散してしまうんだからな。でも、こうして鶴岡と二人で歩くのは、悪くない」

 そう言うと、永井は竹美から視線を逸らした。

 やっぱり、私じゃ駄目なのかしら。永井先輩の心に積もった雪を解かすのは。

 それから二人は、しばらく無言のまま歩き、少し開けたところに出た。そこはゲートが四方にあり、頭上には対角線上に十字の電飾ケーブルが走っている。

「私は、何があっても先輩の前から居なくなりませんから」

 竹美は立ち止まって手を離し、永井のほうへ向くと、意を決して切り出した。

 言っちゃった。えぇい、どうにでもなれ。毒を食らわば皿までだ。このまま、思いの丈を吐き出してしまえ。

「鶴岡。ひょっとして、兄貴から何か聞いたのか」

「過去に何があったにしても、どんなに深い心の傷を負ってたとしても、そのことで先輩のことを嫌いになることはありませんから。だから、私の生涯のパートナーになってください」

 言い切ったあと、竹美は頭を下げ、片手を永井に差し出した。永井は、虚を突かれた様子で立ち尽くす。

「駄目ですか。私のこと、信用できないんですね」

「いやいや。答えは、イエスだ。だけど、何で鶴岡から言ってしまうかな」

 戸惑いつつも、降ろしかけた竹美の手を握る永井。竹美は反対の手を添えると頭を上げ、喜色満面で永井のほうを見つめる。

「だって、言ってくれそうな素振りを見せなかったから」

「重要な台詞だから、ここ一番に備えて大事にしてたんだよ。他人の気も知らないで、まったく」

 逆プロポーズされて調子が狂い、凹む永井。

 ショートケーキの苺を最後の楽しみに取っておいたところを、鳶に油揚げしてしまったわけね。悪気はなかったけど、悪いことしちゃったな。

 永井は空いているほうの手で頭を抱えて項垂れたあと、背筋を伸ばして竹美を見据えて言い放つ。

「この春、卒業したら結婚しよう。竹美のためなら、頑張るから」

「先輩。今、私のこと」

 いつもは苗字でしか呼んでくれないのに。

「そっちが永井になるにしても、こっちが鶴岡になるにしても、竹美は竹美だろう。だから、俺のことは次郎って呼んでくれ。うおっと」

「嬉しいです、次郎さん」

 永井の腰に両腕を回し、ぎゅっと抱きつく竹美。ためらいつつ、永井も竹美の両肩にそっと手を置く。 

 どうなることかと思ったけど、今日は人生で最高の一日だわ。


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