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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
60/232

#059「買い物迷宮」【松子】

#059「買い物迷宮」【松子】


 花など食べられないから贈られても困るという女の本心は、それより早く給料3ヶ月分の指輪を寄越せ、だろう

 市内の国道沿いにある大型ショッピングモールで、松子と万里が買い物をしている。松子は苦々しい表情を浮かべて不機嫌で、万里はショーウィンドウに飾られた商品に目移りしつつ、終始ご機嫌である。

「あのチェックのスカートなんて、どうかしら。二割引きよ」 

 店頭でハンガーラックに吊るされて並べられている洋服群を指差す万里。

「お母さん。今日は服を見に来たわけじゃないのよ。予定外の出費は、一切許さないから」

「固いわね。そんなカチコチにならないで、融通利かせなさいよ」

「とにかく。買うべきものを買うまでは、我慢してちょうだい」

「もう。ちょっとくらい良いじゃない。ケチケチしないの。消費は美徳よ」

 今は、節約が美徳よ。まったく。これじゃあ、どっちが親だか分からないわ。

「ところで、寿くんは何が欲しいってお願いしてたのよ。手紙には何て書いてあったの」

「新しいクレヨンが欲しいそうよ。お絵描きしてるときに確かめたんだけど、ピンクとグレー以外は、だいぶ短くなってたわ」

「それじゃあ、文房具か画材を扱ってるところね」

 松子は立ち止まり、鞄からフロアガイドを取り出し、行く先の目星をつける。万里も、その場に留まる。

 可愛らしいお願いだこと。いつも使ってる十二色入りは五百円程度だろうし、二十四色入りでも千円前後だろう。遠慮したのかしら。ここぞとばかりに高いものをねだる誰かさんたちにも、見習って欲しい姿勢だわ。爪の垢を煎じて飲ませてやろう。

「ここはファッションと小物のエリアだから、一旦戻って、生活雑貨のエリアに移らないと駄目ね。北ブースに移動しましょう」

 歩き出そうとした松子に、万里がくたびれた様子で声を掛ける。

「ねぇ、松子。もう、二時過ぎよ。どこかでお茶しましょうよ。喉が渇いたわ」

 まだ、ここへ来て三十分も経ってないのに。さっきまでのはしゃぎっぷりは、どこへやったんだか。しょうがないな。 

 松子はフロアガイドを裏向け、飲食店のリストを眺める。

「ここから一番近いのは、スターボックスカフェね。こっちよ」

「ちょっと。もっとゆっくり歩きなさいよ、松子」

 足早に歩き出す松子と、それについていく万里。

 空いてれば店内で座れば良いし、席が無ければテイクアウトしても良い。広めの通路には、休憩用のベンチがあちこちに配置されてることもある。どこかで休めるだろう。そのあいだに、どこで贈り物と飲み物を買うか検討しよう。もたもたしてると、余計な出費が嵩んでしまう。そうでなくても、年末年始は物入りな時期なのだ。ここは、最短ルートで攻略しなくては。

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