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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#005「かごめ銀行」【松子】

#005「かごめ銀行」【松子】


 ご当地土産セットを用意するくらいなら、その分のお金を利子に上乗せして還元たら良いのにという言葉は、この場では禁句なんだろうな。

「岡山支店がトマトと白桃、和歌山支店が梅干しと蜜柑、茨城支店が納豆と干し芋、千葉支店が落花生と醤油、群馬支店が白葱と蒟蒻と牛肉のすき焼き三点セット。ここまでは、ほぼ決定済みなのだそうです」

 メモを読み上げたのは、今年の新入行員で、私が指導している秋子ちゃん。女子大卒の二十三歳。コツコツ一生懸命に頑張るタイプなんだけど、成果に結びつかないところが困りどころ。はっきり言えば、要領が悪いの一言に尽きるわ。

「報告ありがとう。それで、ここは何を用意したら良いと思う」

「えっと、そうですね。お茶とお饅頭でしょうか」

 ギュッと目を瞑ってこめかみにボールペンの尻を当てつつ、小首を傾げる秋子。

 葱と煎餅よりは幾分ましだけど、他県の支店に比べると見劣りするわね。

「質問してるのは、こっちのほうよ。質問で返さないでちょうだい」

「あっ、はい。すみません。考えます」

「おやおや、松子女史。後輩をいびるのは感心しないね」

 腹の迫り出した中年男が、二人の背後に立つ。

 出たな、胡麻磨り課長。丙午生まれの棚ぼた行員め。

「私が行なってるのは真っ当な指導ですよ、徳田課長」

「どうだかねぇ。まっ、せいぜい大卒への嫉妬をぶつけないよう気をつけたまえ。それじゃあ、僕は野暮用に」

「お疲れさまです」

 律儀に頭を下げる秋子と会釈で済ませる松子を尻目に、徳田は部屋をあとにした。

 別に、学歴にコンプレックスなんていだいてないわよ。むしろ、父親のコネで潜り込んだことのほうが気懸かりなくらいで。

「課長さんも、お忙しそうですね」

「大したようじゃないわよ。おおかた、本店の専務と中国語の勉強会でもするんでしょう」

「へぇ。中国語を」

 あちゃー。何にも知らないのね、この子は。純粋培養にも程があるわ。

「語学講座を連想してるようなら注意しとくけど、麻雀に行ったってことだからね」

「あっ、なるほど。そういえば麻雀は、中国が発祥ですよね」

 こうも見事にピントが外れるのは、どうしてかしら。どうやって焦点を合わせるかが課題ね。

「部下に残業を命じて自分だけさっさと帰るような上司は、マダガスカルかガラパゴスにでも左遷されてしまえば良いのよ」

「チリにも支店があるんですね」

「あるわけないでしょう。デリバティブ取引をするゾウガメやイグアナがいると思ってるの」

「思えません。あっ、今のがエスプリですね」

 メモにボールペンを走らせ、何やら熱心に書き込む秋子。

「ネタ帳になるから、やめなさい」

 あぁ、頭が痛くなってきた。低気圧も生理も来てないってのに。


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