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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
57/232

#056「緩衝材」【万里】

#056「緩衝材」【万里】


 どうしようかしら、これ。

「ただいま。リビングで、寿くんは何を観てるの。ずいぶん熱心だけど」

 椅子に鞄を置き、冷蔵庫へ向かいながら、松子は、俎板に南瓜を載せたまま、包丁を片手に考え込んでいる万里に声を掛けた。

「おかえり。『ママと共に』よ」

 万里は包丁を俎板に置き、松子のほうへ近付いた。

「あぁ、親子向け教育番組ね。長寿番組よね、あれ」

 冷蔵庫から作り置きの麦茶を出す松子。

「歌のお姉さんや体操のお兄さんは、何度も入れ替わってるわよ。松子のときは、ひろみお姉さんとけんたお兄さんだったでしょう。――私の分も」

 食器棚を開け、グラスを二つ出す万里。

「そうそう。たしか、虎と兎と猿のキャラクターがいたような。――あっ、もう空だわ」

 二つのグラスに麦茶を注ぎ切り、蓋を開けて片目で中を覗く松子。

「そうだったわね。今は、猫と羊と狼よ。――あとで私が作っておくわ」

「現実には仲良く出来そうにない動物をチョイスするところは、変わってないわね。――ところで、さっきから気になってたんだけど、その南瓜をどうするつもりなの」

 南瓜を指差し、万里に質問する松子。

「良い質問ね。冬至だから、スーパーで特売だったのよ。それで、買って来たまでは良いんだけど、皮が硬くって」

 万里が上目遣いで松子を見つめると、松子は溜息を吐いて包丁を手に取り、俎板の前に向かった。

「はいはい。何等分すれば良いの」

「悪いわね。とりあえず、四等分してちょうだい」

  *

「これで良いわね」

 そう宣言すると、松子は包丁を俎板の上に置いた。傍には、一口大に切られた南瓜がボウルに入れられ、ごろごろと積み上げられている。

「ありがとう。頼りになるわね、松子」

 力仕事は、松子に任せるのが一番ね。

「それじゃあ、私は部屋に上がるから」

 鞄を持ち二階へ向かう松子を、万里は後ろから呼び止める。

「待って、松子。最近、坂口さんとは、どうなの。何か進展は」

 松子は歩みを止めて振り向き、淡々とした口調で述べる。

「一日に送られてくるメールの本数が、需給均衡してきたわ」

「そういうことじゃないの。そのメッセージの内容を教えなさいってことよ。ビジネスでも、小松菜は大事でしょう」

「それを言うなら、ホウレンソウよ」

「どっちでも良いわよ。ねぇ、どうなのよ、そこのところは」

「業務連絡。二十四日の仕事終わりに坂口さんの家に行きます。その場でプレゼント交換と映画鑑賞をするので、祝日で休みの明日に、贈り物と飲み物を買いに行きます。以上」

 まぁ。そこまで進展していながら、報告も相談もよこさないなんて、水臭いじゃないの。これだから松子は。

「そういうことは、もっと前に言いなさい。私が聞かなかったら、一人で買いに行くつもりだったでしょう」

「だって、お母さん。言ったら、一緒に買いに行くっていうじゃない」

「良いじゃない、別に。何が不満なのよ」

 二人が言い争っていると、寿があいだに分け入る。

「喧嘩は駄目だよ。余計にお腹が空いちゃうんだから」

 小学生に言われちゃ、面目ないわね。大人気ない諍いは、ひとまず、この辺で止めにしましょう。

「ここは寿くんに免じて休戦協定を結びましょう、狼さん」

 松子に交渉を持ちかける万里。松子は、寸時考えたあと、万里に答えを返す。

「そうね。仲良ししなきゃ駄目ね、猫さん」

「よくできました」 

 寿は二人の顔から険悪さが薄らいだのを見て、満足気にこっくり頷いた。

 さて。南瓜を鍋に移して、お醤油と味醂を用意しなくっちゃ。会談と条約締結は、お夕食のあとに持ち越しね。


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