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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
55/232

#054「こたつ会議」【小梅】

#054「こたつ会議」【小梅】


 ガベル代わりに市政新聞を蛇腹に折ったハリセンで天板を叩きつつ、松子はあとの四人に静粛を促すと、厳かに開会を宣言した。 

「それでは、第何回目か分からない家族会議を始めます」

 本当に、これで何回目なんだろう。ここ数年で、軽く百回は超えてそうだけど。

 子供部屋では、上手から時計回りに松子、竹美、小梅と寿、万里が炬燵の四辺を囲んでいる。

「議長。議題は何ですか」

 万里が挙手をして発言すると、竹美が茶々を入れる。

「忠臣蔵をハッピーエンドにする方法よ」

「違います。寿くんについてです」

 松子は竹美を牽制すると、寿を見据えた。

「僕、何か悪いことしたの」

「うぅん、そういうことじゃないのよ」

 不安気な様子の寿の背中にそっと手を置き、小梅は穏やかな口調で宥めた。

 怒ってるわけじゃ無いんだけど、真面目な顔をしてると怖いのよね、松姉。

「ほら、松子。そんな風に睨んじゃ、寿くんが怯えるじゃない」

 万里が小梅の発言に協調する。松子は口元に拳を当て、わざとらしい咳払いをして続ける。

「おっほん。会議を進めます。順調に回復すれば、来年の三月には誠叔父さんが退院する見通しだということで、来年度以降のことについて話し合いたいと思います」

「来年のことを言うと、鬼が大爆笑するわよ」

「水を差さないの、竹美。今から決めなきゃいけないことがあるのよ」

 そう言うと、松子はハリセンを広げ、赤鉛筆で囲った記事を指差した。記事には「学童保育の申し込みについてのお知らせ」とある。

 続いて、万里が補足説明する。

「このまま預かり続けるなら必要無いけど、完全に誠のところへ戻すなら、市役所が年末年始の休業に入る前に再申請しないといけないのよ」

 なるほど。そういうことか。

「ということは、ここに来る前は、そっちで預かってもらってたのね。学童とここと、どっちのほうが良い、寿くん」

 小梅が寿に質問すると、寿はおずおずと答えた。

「学童は、折り紙を折ったり、お菓子を作ったり、楽しいこともあるんだけどさ。でも、ここみたいに、好きなときに好きなことをできないんだよね。それに、他の学童の子みんなとお友達な訳でもないし。それが、ちょっと嫌かも」

 あくまで、全体で決めたルールに従わなきゃいけないのね。学校が終わったあとも自分の意志が通らないのは、たしかに辛いわね。

「預ける保護者からすれば安全で、預かる施設としては平等かもしれないけど、預けられる子供としては自由が無いのよね」

 竹美は、しみじみと何かを思い出すような調子で感嘆を漏らした。

「竹美のときも、そうだったの」

「そうね。私は、三年生の十二月から四ヶ月だけだって分かってたから、何とか不平不満を抑えて我慢したけど、二年以上となると、合う合わないの差が大きいと思うわ」

「そうだったのね」

 竹美の発言を受け、万里は沈んだ調子で目を伏せた。

 一人で留守番させるよりは誰かと一緒に居たほうが良いけど、一緒に居る相手を選べるなら、それに越したことは無いものね。

「議長。二年生になれば五時間目まで学校に居ることになるし、午後なら家に誰か居るだろうから、叔父さんが退院してからも夕方まで預かることにしたらどうかしら」

 小梅が挙手をして発言すると、松子は目線を左右に走らせ、全員に向けて確認する。

「ただいまの小梅の案に賛成の人は、挙手を願います」

 松子が言い切る前に、竹美、小梅、寿、万里の四人は素早く手を挙げた。

「満場一致で可決されました。それでは、第何回目か分からない家族会議を終わります」

 松子は市政新聞を細長く折りなおすと、天板を叩いて場を締めた。

 これにて閉廷。これじゃあ、会議というより裁判だと思うんだけど、いつの間にか、このスタイルが定着しちゃったのよね。

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