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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
54/232

#053「ハングリー」【竹美】

#053「ハングリー」【竹美】

 

 一難去って、また一難。命からがら虎をやり過ごしたと思ったら、狼が待ち構えていた。

 竹美と風華は、情報教室でレポートの裏付けとなる資料を探している。

「一月は二次試験の問題作成やら一次試験の試験監督やらで忙しいから、レポートは年内最後の演習までに仕上げるように、だなんて」

 パソコンのディスプレーに向かい、大きく溜息を吐く竹美。

 ついてないなぁ。

「本当よね。急に予定を変更されちゃ、溜まったものじゃないわ。ふざけないでって感じ」

 風華は、頭頂部からポコポコと湯気でも出しそうな様子で竹美に共感する。

「インターンシップが終わって、やっと一息つけると思ったのになぁ」

 忙しさから、すっかり憔悴気味の竹美。風華は、キャスター付きの回転椅子の座面の左右を両手で掴み、脚でカーペット敷きの床を蹴って一回転半すると、すっくと立ち上がる。

「机や画面に噛り付いたって、良いアイデアは浮かばないわ。リフレッシュしましょう」

 そう宣言すると、風華はトートバッグを乱暴に掴み、大股で出口に向かった。

「ちょっと待ってよ、風華」

 移動するなら、その前に、せめて、どこへ行くか告げてよね。

 竹美は急いでシャットダウンすると、ハンドバッグを持って風華を追いかけた。

  *

 薄々予想していた通り、風華の行き先は永井先輩の家で、そして転がり込んだ先には先客が居た。

「お前たちは、俺の家を何だと思ってるんだ。ホテルか旅館だと思ってるなら、利用料を取るぞ」

 突然訪問してきた風華と竹美に対し、永井は改めて不快感を顕わにした。

「まぁまぁ、人数が多いほうが賑やかで楽しいじゃないか。もう少しで夕食が出来るから、食べて行ってね」

 ティーシャツにエプロン姿の長一が、リビングでテーブルを囲む三人に向け、キッチンから声を掛けた。ティーシャツの後ろには、「親切、丁寧、地域密着のナガイ不動産」という筆文字が躍っている。

「ティーシャツ一枚で、寒くないんですか」

 竹美が気遣って声を掛けると、長一はへらへらと締りのない笑みを浮かべて答える。

「火のそばにいるから、むしろ暑いくらいだよ。ありがとう、竹美ちゃん」

「いい企業宣伝ですね。永井先輩も、中に着てるんですか」

 風華の質問に、永井は素っ気なく答える。

「誰がプライベートで着るか」

「さっきまで見てた大学図書館のホームページにも、バナー広告がありましたけど」

 竹美が言いかけると、長一が得意の長広舌を揮いながら、リビングのほうへ歩いてくる。 

「いい着眼点だね。他にも市立図書館で本を借りたときに発行される貸出状況を印字したレシートの裏、それから、市政新聞の毎月十日版にも、最終面でカラーの広告を載せてもらってるんだ。本を借りるなら図書館へ、家を借りるならナガイ不動産へ。戸籍のことは市役所で、戸建のことはナガイ不動産で。捻りがない文句だけど、奇を衒うと公共施設は敬遠するからね。斬新なキャッチコピーのほうは目を惹くけど、載せてもらえなくなったら本末転倒だし、それに」

「おい、火から目を離すな」

 永井の一声で演説を止め、長一はキッチンへ戻って行く。

 何が出来るのかしら。細工は流々と言ってたけど、料理名は教えてくれなかったのよね。オリジナリティーに走ってなきゃ良いんだけど。……他人のことは言えないか。

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