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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
53/232

#052「乳か卵か」【万里】

#052「乳か卵か」【万里】


「竹美。それ以上胸を育ててジーカップになったら、ラインナップの幅が狭くなるわよ」

「お姉ちゃんこそ、そのディレイのかからない俎板に、少しは膨らみを持たせなさいよ」

 松子にはカルシウムだけ、竹美には脂質だけ吸収されるみたいね。

 キッチンで、シャワーだけで済ませて牛乳を飲む松子と、先に上がってプリンを食べている竹美が言い争っているのを横目で見ながら、万里は心の内で、そんな他愛もないことを考えていた。

「それじゃあ、脂肪だけ切り取って寄越しなさい」

「やってみなさいよ、シャイロック。血は一滴も流しちゃ駄目だからね」

 足して二で割って、二人ともシーからディーくらいになればベストなのに。

 仲裁するのを諦め、完全に傍観者に徹する万里。そこへ、風呂上りの寿が駆け込んでくる。

「聞いて、聞いて。今日は百まで、一度も間違えずに数えられたよ」

「あら、凄いわね」

 万里が寿の頭を撫でていると、ふらふらと小梅が歩いてくる。

「そのお陰で、私はのぼせたんだけどね。松姉と違って体積が少ない分、身体の芯まですぐに熱が伝わるから困るわ」

 小梅の言い掛かりに対し、松子は抗議の声を上げる。

「何よ、小梅。他人をデブみたいに扱わないでちょうだい。私は、骨太なだけよ」

 初めてのお産だからわからなかったけど、竹美を身籠って、ようやく松子は特別重かったんだと実感したのよね。

 竹美は、松子の矛先が小梅に向いたのを良いことに、空いたカップとプラスチックスプーンをゴミ箱に捨て、子供部屋へと移動していった。

「松姉が四キロ以上で産まれたから、私が二キロ以下だったのよ。未だに小学生と間違われるのは、松姉のせいだからね」 

「因縁をつけないでよ。産まれたのは、予定日通りだったんだから」

 オンスケでなくて結構なのに、変なところで頑固で融通が利かないんだから。とにかく身体が規格外に頑丈に出来ているのは、いま、ホノルルを走ってるお母さんに似たのね、きっと。そこのところは、病弱だったお父さんや博さんに似なくて正解だわ。

「よていびって何」

 キラキラと目を輝かせながら、寿は万里に質問した。

 なかなかデリケートな問題に踏み込むわね、寿くん。

「赤ちゃんが産まれる日のことよ」

「それじゃあ、コウノトリさんは、指定日配達してくれるってこと」

 おっと、そう来たか。サンタクロースを信じてるなら、コウノトリが運んでくると思っていても不思議じゃないわね。

「そうよ。この日にお届けしますって、あらかじめ教えてくれるの」

「へー、便利だね。――あっ、牛乳が無くなってる」

 冷蔵庫の扉を開け、ドアポケットの空きに気付いた寿。

 嘘も方便。男性と女性についての正確な知識を教えるのは、あと五年くらいしてからじゃないとね。

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