#004「お手伝い」【小梅】
#004「お手伝い」【小梅】
子供部屋のローテーブルの上には、ペン入れだけ終わった原稿が折り重なっている。締め切りは明日なので、松姉と竹姉にもヘルプを要請し、目下、三姉妹総出でカラー化に邁進中。
「アルコールマーカーや透明水彩で色塗りか」
「美術部というより、ほぼほぼ漫画研究会ね。ねぇ、小梅。ここはゼロ番でぼかしとけば良いの」
「いや、そこは、こっちの色でグラデーションにして」
コンコンとノックの音が聞こえたからドアを開けると、暇を持て余したとみえる寿くんが立っていた。
「お姉ちゃんたち、今、何してるの」
同人原稿の色入れだよ、なんて言っても通じないわよね。
「ちょっと難しい塗り絵をしてるのよ」
「そうそう。悪いけど、今は忙しくて手が離せないの」
返答に窮してる小梅の助け舟として、マーカーや絵筆を軽く掲げながら、松子と竹美が説明した。
お姉ちゃんたち、ナイス、アシスト。
「そういう訳だから、終わるまで下で待っててくれるかな」
「塗り絵なら、僕も得意だよ」
そう来たか。困ったなぁ。
小梅は部屋の奥へ振り返り、二人に視線を送った。
「簡単なベタ塗りから任せてみたら、どうかしら」
小声で話す松子に、竹美も賛同する。
「そうね。猫の手も借りたいくらいだし」
いやいや。何で手伝わせる方向なのよ。
小梅は逸る胸の内を抑えつつ、二人に小声で言う。
「でも、技術的に小学生には厳しいんじゃない」
「だから、間違いのリスクが少ない単純作業からやらせてみるのよ」
「人手は多いほうが良いものね」
「でも」
「僕もお手伝いしたいんだけど、駄目かな」
寿は服の端を両手でギュッと掴み、顔を伏せた。
待って、待って。何も泣くこと無いわ。
「入りなさい、寿くん。――良いわよね、小梅」
松子は寿に向かって手招きし、視線を小梅に向ける。
「もちろん。おいで、寿くん」
小梅が呼びかけると、寿はパッと笑顔になり、駆け寄った。
「ありがとう、お姉ちゃん。それで、僕は何をしたら良いの」
「まずは、ここをこのマーカーで塗ってくれるかしら」
「わかった」
竹美がキャップが付いたままのマーカーで範囲を示すと、寿はマーカーと原稿を受け取り、キャップを外して塗り始めた。
このあと、松姉や竹姉の的確な指示と、寿くんの塗り絵の才能のおかげで、いつになく手際良く原稿が片付いたのよね。借りた猫の手が意外と優秀で、ちょっと驚いちゃった。