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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#048「ほろ酔い」【竹美】

#048「ほろ酔い」【竹美】


 学祭初日が無事終わって、風華が打ち上げをしようと言い出し、久々にジローの家に行きたいという中原先輩の要望から、永井先輩の家に集まっている。中原先輩と風華は、まだライブの興奮が冷め止んでいない。それどころか、アルコールが入って、更に加熱している。

「ドラムス、走りすぎ。ピアノ、音外しすぎ」

「ベース、調子に乗りすぎ。フォローが大変だった」

 カップ酒を呷りつつ風華と竹美の反省点を挙げていく中原に対し、銀杏を剥きながら中原に指摘をする永井。

 私が音を外したのは、リズム担当の二人が走りすぎたからなんだけどなぁ。

「でも、スタンディングオベーションにアンコールまである盛り上がりだったじゃありませんか」

「そうそう、竹美の言う通りよ。中原先輩の限定復活と、永井先輩のラスト公演というプレミアが効いたわね」

 缶チューハイを片手に中原の苦言に反論する竹美と、スルメイカを噛みながら竹美に加勢する風華。

 エー列車を暴走特急にした片割れなのに。危うくシベリアまで行きかけたわよ。

「まぁ、終わり良ければ、すべて良しってことだな。――あれれ、酒は、これだけしか買ってなかったっけ、なぁ、ジロー」

 永井が剥いた銀杏を頬張りつつ、中原はレジ袋を漁りながら発言した。

「どれだけ飲み食いしたか記憶に無いのか、リュースケ。相当、酔ってるな」

 永井が呆れている傍らで、ひそひそと囁き合う竹美と風華。

「そろそろ、ファンタジー溢れる詩を呟き出す頃かしら」

「そうね。ポエム上戸だもんね、中原先輩」

 中原は、やにわに立ち上がると、三人に向かって宣言した。

「よーし、決めた。今からジャンケンして、負けた二人が酒とつまみを買ってくることにしよう。出さなきゃ負けだ、最初はグー」

  *

 レジ袋を片手に、並んで歩く永井と竹美。

「リュースケはチビのくせに大食いだし、笠置は遠慮が無い」

「ははは。まぁ、良いじゃありませんか。久々に集まったんですから。中原先輩の赤毛も、永井先輩の金髪も、ずいぶん久し振りですね」

「あぁ。今年に入ってから、ずっと染めてなかったからな。説明会や面接では、黒くしてたし」

「ということは、地毛は茶色なんですね」

「ちょっとブリーチしすぎたからな。でも、金髪にするのは、これでおしまいだ。春までには黒に戻さないと」

 もう、金髪の先輩を拝めないのか。残念。

「ギリギリだけど、何とか卒業は出来そうだし、縁故採用に近くとも、内定も決まってるからな。いつまでも学生気分でいられない。それに」

 伏目がちに口篭る永井。気まずい沈黙が流れ、竹美が口火を切る。

「それに、何なんですか」

「この先の台詞は、もう少し先まで取っておこう」

「えー、教えてくださいよ」

「時期尚早だ。寒いから、早く家に戻ろう」

 視線を竹美から逸らし、歩みを速める永井。

 いけずな先輩だこと。でも、そういう素直じゃないところに惹かれちゃうのよね、私って。本当、厄介な性格だわ。


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