#047「ワーク」【松子】
#047「ワーク」【松子】
秋が深まり、楓は紅葉を散らせ、すっかり風は冬の寒さを感じさせるようになり、街はクリスマスの装いを帯び始めている。
松子が皿に持った柿、果物ナイフ、爪楊枝を乗せたお盆を持って子供部屋に入ると、炬燵には竹美と小梅の二人がいた。小梅は、ワークブックを広げている。
「あれ、寿くんは。炬燵の中に隠れてるの」
松子はお盆を天板の上に置き、炬燵布団を捲って覗き込む。
「もう寝たわよ。良い子にしてなきゃプレゼントが貰えないから、早寝早起きして、好き嫌いもせず、進んでお手伝いするんだって」
「松姉、寒い」
松子は両足を炬燵に入れ、柿を剥き始める。
「サンタクロースが来るのは、まだ一ヶ月も先なのに」
「よっぽど楽しみなのよ。この前、手紙を書いてママに渡してたもの」
「夢を壊しちゃ駄目よ、お姉ちゃん」
「分かってるって。我慢するわ」
サンタクロースが居ないという現実を突きつけるのは、もう少し大人の階段を上ってからでも遅くないわよね。どこかに居ると信じてるうちは、邪魔しないようにしなくちゃ。
「あっ、そうそう。今日は勤労感謝の日だったのね。帰ってきたとき、寿くんから『いつもお仕事おつかれさまです』って言われたから、何かと思ってたんだけど」
「へー。小学生でも、誰が家のボスなのか判断できるのね。――皮の赤みの割には、中身はあまり熟れてないわね」
竹美が爪楊枝で柿を食べながら言った台詞に、小梅が合いの手を入れる。
「よっ、尼将軍」
「誰が北条政子よ。――半分は私のだからね、竹美」
「分かってるって。我慢するわ」
「あぁ、そっか。尼将軍は、北条政子か。北条、政子っと」
そう呟きながら、小梅は、ワークブックの解答欄を埋めた。
*
松子は使った果物ナイフと皿を洗い終え、キッチンから子供部屋に戻ろうとしたところ、リビングのソファーで万里が転寝をしているのに気付いた。
あらあら。寝るんなら、二階に上がれば良いのに。
松子はソファーの前で立ち止まり、口を開き、何か言おうとしたが、しばし万里の様子を観察したのち、そのまま無言で口を閉じ、二階へと向かう。
毛布を持ってこよう。日頃の家事労働に感謝しなくっちゃ。賃金も発生せず、年中無休だものね。




