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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#046「バーバー」【万里】

#046「バーバー」【万里】

 

「伯母さんに電話だよ。『万里ちゃんに代わって』だって」 

 そう言いながら、寿は受話器を万里に向けた。

 誰かしら。ちゃん付けで呼ぶってことは、お母さんでは無いわね。

 訝しげな表情で、寿から受話器を受け取る万里。

「もしもし、万里です。……あぁ、お義姉さん」

 ホッと胸を撫で下ろす万里。通話口を片手で覆い、声量を抑えて寿にしばらくリビングに居るように告げると、再び通話を続ける。寿は、万里に言われた通りに退散する。

「それで、ご用件は何かしら」

「博のことなんだけどさ。もうすぐ命日で、今年は十三回忌でしょう。それで、どうしようかと思ってて」

「手頃な場所が見つからないんですか。いつもの和食屋さんは、予約でいっぱいなの」

「いや、そうじゃなくてね。四十九日、三回忌、七回忌と三回も法要をしたから、もう充分じゃないかと思って。一平も成二も、部活だアルバイトだと忙しいし、お店のほうも、これから年末年始の書き入れ時に向けて旦那と準備しなきゃならないもの。それに、精進料理は健康的だけどパンチが足りないし、自慢と愚痴の近況報告は精神衛生に悪いわ」

 ヤンチャな双子も、もう高校生なのよね。時が経つのは早いわ。

「そうね。私のほうも、娘たちと甥の面倒で身体が空きそうにないわ」

「あぁ、やっぱり寿くんだったのね。何で万里ちゃんの家に居るのよ。誠くんは、どうしたの」

 やれやれ。弟の失態を再度説明しないといけないのか。

  *

「図体は一人前に大きくなったのに、中身は悪戯小僧のままでね。本当、誰に似たのかしら」

 お義姉さんでしょう。小さいときに散々悪戯されたって博さんが言ってたわよ。

「大人しい謙くんが、ヤンチャ坊主だったとは思えないけど」

「今度悪さをしたら丸刈りにすると脅しても、ちっとも懲りないんだから。鋏でちょん切ってやろうかしら」

 何を切るつもりか知らないけど、美容師の命をそんな粗末に扱っちゃ駄目よ。

「ところで、今は営業時間よね。お店は、謙くんに任せてるのかしら」

「旦那なら、キャバ嬢のカール中よ。ほら、顔の横に、蝿取り紙みたいにして巻いてる髪があるでしょう」

 なるほど。フラフラと寄ってきた男を、それで捕まえるわけね。そういえば、謙くんは誠と同い年なのよね。食い殺されはしなくとも、尻に敷かれてるわね。

「本人に聞こえたら、気分を害するわよ」

「構いやしないわ。あっ、新しい客が来たから、これで切るわね」

「それじゃあ、ごきげんよう」

 ボタンを押し、通話を終える万里。リビングから戻ってきた寿は、目を輝かせながら万里に質問する。

「誰だったの、今の人は。お名前は」

「名前は木下恵子。博さんのお姉さんよ」

 万里の答えに、首を捻る寿。

「博伯父さんのお姉さんって、僕の何になるの」

 難しい質問ね。寿くんから見ると、続柄は何ていうんだろう。伯母婿の姉ってところなのかしら。血縁関係って、本当、ややこしい。まぁ、どちらにしても。

「細かいことは分からないけど、伯母さんには違いないと思うわ」

「ふーん。じゃあ、恵子伯母さんって呼べば良いの」

「そうね。それで良いと思うわ」

 本人にしてみれば、おばさんじゃなくておねえさんと呼ばれたいだろうけど。


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