#045「再集合」【竹美】
#045「再集合」【竹美】
「俺を本気で怒らせるなよ、ジロー。笑ってやってるけど、結構コンプレックスなんだからな」
口元では笑みを湛えながらも、眉を顰める中原。
自虐も含めて身長の低さをネタにするのは定番だけど、意外と繊細なのよね、中原先輩。
「何だ、リュースケ。ベースと並んで、身長と同じだとでも言う気か」
中原の脇に置いてあるハードケースを指差す永井。
「ネクタイか。そこまで低くないし」
フィッシュバーガーを食べながら言い返す中原に対し、それを永井はアイスコーヒーを飲みながら、冗談めかして切り返している。
ラストの曲目が「エー列車で行こう」に決まった途端、風華は用事を思い出して先に帰ってしまった。だから、今、ビリジアンバーガーに居るのは、先輩二人と私だけ。久々に会ったというのに、二人とも遠慮がない。
「でかい楽器を背負ってるから、余計にチビに見える。しかも、そのベース、ロングスケールだろう」
中原先輩のベースは、彼の体格を考慮しなくても、明らかにミディアムスケールではないと素人目にも分かる。
「エクストラだ。ビッグな俺に相応しい」
ということは、弦だけで一メートル近くあるのか。道理で長いと思った。
「ショートで充分だろうに。すべてエルサイズなのも、そういうことなのか。燃費が悪いな」
永井は、中原のトレーを見ながら言った。
コーヒーしか口にしてませんけど、何か食べてはいかがですか、永井先輩。ガス欠しても知りませんよ。
「何だよ。俺がジローくらい手足が長かったら、完璧すぎて嫉妬されてしまう。一つぐらい欠点があるほうが、かえって良いもんだぜ。これ見よがしに、海外ブランドを身に付けて自慢してる人間には、理解できないだろうけど」
中原はフィッシュバーガーを平らげると、コーラを一口含み、ポテトを食べ始める。油を吸ったポテトは、持ち上げると、くの字に曲がるほど萎びている。
「背が高いと、国産の既製服にサイズが無いだけだ。それに、レディースを流用してる人間に言われたくない」
靴と洋服は欧米基準という訳か。百八十センチ以上あると、何かと不便そうね。
「うるさい。ウィメンズのほうが、デザインとサイズが豊富なんだよ。スレンダーな俺の美しさを引き出すには、メンズよりよっぽど良い」
美意識は人それぞれだけど、三白眼と蟹股を除けば、良い線いってると思う。良く食べる割には、スリムだし。
中原のトレーに乱雑に置かれた包み紙や空き容器を目視で数えつつ、竹美は心の中で切り上げるタイミングを計り始める。
話は面白いけど、そろそろ帰らなきゃ。中原先輩がポテトを食べ終わったら、お暇させてもらおう。




