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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
45/232

#044「祭りの後」【英里】

#044「祭りの後」【英里】


 文化祭は、無事終了。ただ、つつがなく、とは行かなかったのよね。

 放課後の教室で、小梅、英里、吉川の三人は、今日一日のことを振り返って駄弁を弄している。

「受付で子供に泣かれたそうじゃないか。潰れたあんまんのお化けが出た、とでも思ったんだろうな。妖怪、へちゃむくれ」

 自分でも痩せれば美人だと思うんだけど、思春期の食欲は、なかなか歯止めが効かないものなのよ。だから、言い返させてもらうわ。

「誰がブサイクよ、この月面男」

「俺のニキビ痕は、クレーターなのかよ」

 それほど土台は悪くないと思うんだけど、いかんせん性格が三枚目だから、口を開くと台無しになる。でも、気さくで話しやすいのは良いところ。

「そういえば吉川くん、振り付けを間違えたわよね」

 小梅が、吉川に話しかけた。吉川は、その場に手をついて平伏する。

「へへっ。弘法も筆を誤ります。平に、平にご容赦を」

「謝っちゃった。英里ちゃんをブサイク呼ばわりするから、ちょっと反省してもらおうと思っただけなのに」

 眉をハの字にして戸惑いを顕わにする小梅。

「えぇい、面を上げい」 

「はっ」

 英里の低音ボイスに反応し、素早く顔を上げる吉川。

「即興で時代劇が出来るあたりが、二人の付き合いの長さを示してるわね。お互いのことをよく知ってなきゃ、そんなこと出来ないもの」

 感心する小梅に対して、吉川は、したり顔をする。

「そうなんだよな。何てったって、同じ釜の飯を食べて育った仲だからな。育つベクトルは、だいぶ違ったみたいだけど」

 不躾な視線を英里の腹部に注ぐ吉川。

「まだ言うか、この独活の大木」

 英里は座ったまま足を伸ばし、向かいに立つ吉川の弁慶の泣き所を蹴る。

「イッテーな。タッパは、有るに越したことないってのに」

 二人の掛け合いを受け、小梅は口元を手で押さえ、くすくすと忍び笑いを漏らした。

「やや受け、だな。それなら、ここで渾身の一発ギャグを」

「誰も望んでないから、やめなさい」

 鉄板のネタが色々あるのは知ってるけど、大半は身体を張った下品なものだからアウトってことで。

 他愛もない話で談笑していると、スピーカーから、放送部長の大橋による下校案内放送が流れる。音質は悪く、ノイズ交じりのまま。

「絶対下校、十分前になりました。校内に残っている生徒は、速やかに下校の準備をしましょう」

 吉川は時計を確認し、英里は窓のほうを向く。

「あっ。もう、そんな時間か」

「本当。すっかり外が茜色に染まってるわ」

「話に夢中になってて、気付かなかったわね。早く帰りましょう」

 三人はめいめいに荷物を持つと、窓を閉めて回る。

 少しは痩せる努力をしようかしら。少なくとも、冬太りしないように頑張ろう。……明日から。



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