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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
43/232

#042「子年の三人」【風華】

#042「子年の三人」【風華】


「相変わらず、ハットとブーツは脱がない主義なんですね」

 トレードマークが無ければ、改札口で素通りしてたところだわ。

「赤毛とピアス穴は妥協しても、靴と帽子までは変えないぜ。働かない成長ホルモンに対する、ささやかな抵抗さ」

 秘密のブーツとソフト帽で、やっと百六十センチを超えるのよね。脱いだら竹美より小さいし、被らなきゃ私より低いし、履いても永井先輩とは頭一つ分違う。早生まれであることを差し引いても、やっぱり背が低い部類だと思う。

 小柄な男と風華は、アップテンポの曲が流れるファストフード店で、硬い椅子に腰掛けながら、互いの近況を報告し合っている。男の横には、ハードケースに入った状態のベースが立て掛けてある。

「今の時期は、学祭に向けて、ステージ演奏の練習中だろう。調子は、どうだ」

「このあいだまでは、いまいち息が合わなかったんですけど、最近は音が揃うようになってきまして。でも、何か物足りないんですよね。ラストの曲目も決まってませんし」

 チーズバーガーを頬張りながら風華の話を聞いていた男は、途中で食べるのを止め、バナナシェイクで喉を潤したあと、話し始めた。

「ほうほう、それはお困りだろう。一つ確認だけど、本番は学祭の初日だよな」

 男は人差し指を立て、風華の顔を見る。

「そうです。毎年、ジャズ同好会は初日に演奏するよう、自治会から割り当てられてますから」

 初めて先輩二人のステージを見たのは、もう三年前になるのよね。同好会の門を叩いたのも、二年半も前の話か。

 男は続けて中指を立て、再び風華に質問する。

「そうそう、自治会の連中が仕切ってるんだったな。それじゃあ、もう一点。『エー列車で行こう』は、まだ叩けそうか」

「もちろんです。何度も演奏してますから、身体で覚えてます。竹美や永井先輩も、まだまだ弾けると思います」

 入学したてで、まだ桜が舞い散っていた頃、初心者だった私と竹美が最初に練習した思い入れの強い曲だもの。ベースの響きに引き寄せられた私と、サックスの音に誘われた竹美。ダンス経験者ならリズム感と体力を持ち合わせてると踏んでドラムスを勧めてくれたのが、この中原先輩で、クラシックは弾けるとあってピアノ担当として竹美を入部させたが、永井先輩。

「それじゃあ、提案なんだけどさ。一日限りで再結成しないか」

 中原は、立てていた指を引っ込め、躊躇いがちに切り出した。 

「もう一度、四人でってことですか」

「そういうこと。たまにはこいつに、陽の目を見せないといけないと思ってな」

 ハードケースをコンコンと軽くノックする中原。

 うん。悪くない提案だわ。私は賛成だし、竹美も乗ってくれるだろうけど。

「良いアイデアだと思います。でも、永井先輩がどう思うか」

「やっぱり、そこだよな。何か突破口になる秘策は無いか、笠置」

 急に言われても、困るわ。こういうときは、考える人数を増やすに限る。

 スマートフォンを取り出し、数度タップして耳に当てる風華。

「とりあえず、竹美を呼びますね。……あっ、竹美。あのね。今、かごめ駅前のビリジアンバーガーにいるんだけど、すぐ来られるかしら」


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