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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#041「経年劣化」【万里】

#041「経年劣化」【万里】


「竹美は、洗濯物を取り込んできてちょうだい。ついでに畳んでくれると助かるわ。私は、寿くんとお夕飯の支度をするから」

 階段の下から、中ほどの段に居る竹美に向かって話す万里。

 今日は、青魚が安かったのよね。お味噌で煮付けて、明日のお弁当にも使えるようにしようっと。 

「えー、私一人で五人分を畳むのは嫌よ。寿くんを、こっちに貸して」

「駄目よ。小学生にセクシーなランジェリーは、刺激が強すぎるわ」

「一番派手なのは、お母さんのだけどね。まったく、どこで買うのやら」

「通販よ。カタログ、見せてあげましょうか」

「結構です。とりあえず、取り込むだけ取り込んでくるから」

 階段を上る竹美。

 畳む気も、カタログを読む気も無いのね。サービス精神も、お色気も無いんだから。やれやれ。お年頃なのに勿体ない。

 竹美とすれ違いで、寿がグラスと体温計が乗ったお盆を持って降りてくる。

「三十七度二分だったよ、梅姉ちゃん」

 万里は体温計を手に取り、表示を確かめる。

 本当だ。微熱まで治まってきたから、明日には治るわね。回復力の高いこと。

「そのようね。ありがとう、寿くん」

 万里は体温計を戻し、寿からお盆を受け取る。

「えへへ。どういたしまして。竹姉ちゃんに言われたけど、今から晩御飯を作るんでしょう」

「そうよ。今夜は、お魚をたくさん買ってきたの」

「わーい。お魚、お魚」

 寿はキッチンへ駆けていき、その後ろを万里が歩いていく。

 靴下に穴が開いてるから、洗ったあとに繕ってあげよう。

  *

「風邪は寝て治す。せいぜい風邪薬までで、医者には掛からない。若いうちは、気合で何とかなったものだけど、歳を取ると駄目ね。すっかり、自然治癒力が弱ってるわ」

 チェックのクロスが掛かったテーブルで、タキと万里は昆布茶を片手に座談している。

「本当。娘たちが羨ましくて。でも、若さの特権に気付くのは、それを失ってからよね」

 ちらりと横目で時計を見る万里。昆布茶を一口啜り、溜息混じりに話を続けるタキ。

「まったくだわ。ものの有難みは、無くなってはじめて痛感するものだわ。実は、房枝が派遣の仕事を年内一杯で切られることになってね」

「あら、そう。それは、大変」

「それで、これまで使わなかった、いや使えなかった有給を消化しながら、新しい仕事を探してたんだけど、ここのところ、燃え尽き症候群に陥っているのよ」

「まぁ、可哀想に」

「旦那も、いつクビになってもおかしくないでしょう。この際だから、手近なところで片付けようと思って」

「片付けるって、どうやって」

「決まってるじゃない。見合いをさせるのよ。恋愛では結婚まで辿り着けないんだから、仕方なしにね。私も気が進まないし、房枝も乗り気じゃないだろうけど、ぐずぐずしてたら機会を逃しちゃうもの。失くしてから貴重さを知るんじゃ遅いわ」

 強引だけど、四の五の言ってられないか。 

「それで、お相手は」

「だから、すぐ手近なところよ。あっ、そろそろ戻らなきゃ」

 冷めた昆布茶をグッと飲み干し、湯呑みを持って立ち上がるタキ。同じように湯呑みを持ち、あとに続く万里。

 時間切れね。続きは、帰るときに更衣室で聞くことにしましょう。


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