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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
41/232

#040「寒暖差」【小梅】

#040「寒暖差」【小梅】


 少なくとも、風邪を引いたからには馬鹿ではないと思う。

「具合は、どう、小梅」

「昨夜よりは、だいぶマシになってるけど、まだダルイ」 

 小梅が布団中から気だるげに答えるのを聞きながら、万里は体温計の表示を見た。

「三十八度五分か。立派な風邪ね。今日はお休みするよう学校に連絡しておくから、ゆっくり治しなさいね。食欲は、ありそう」

「あんまり無い」

「そう。ここにお水を置いてあるから、水分だけは摂りなさいね。置き薬の中に、ヨクナールかナオルンがあるはずだから、必要なら出して飲みなさいよ」

「ありがとう、ママ。そろそろ、パートに出ないといけないんじゃない」

 小梅の発言を聞いたあと、万里は時計をチラリと見て、急いで立ち上がった。 

「それじゃあ、何かあったらすぐに知らせるのよ。午後には、竹美が戻ってくるだろうし、寿くんも帰ってくるわ」

「わかったから、早く行って。また、小林さんに怒られるわよ」

「平気よ。じゃあ、行ってくるわね」

 そそくさと立ち去る万里の後ろ姿に向かい、小梅は小さく声を掛ける。

「いってらっしゃい」

 文化祭が差し迫って、忙しい時期なのに。ゆっくりしていられないわよ。

 小梅は階段を降りる足音が聞こえなくなったのを確かめると、布団から這い出てローテーブルに向かった。

  *

 人間には誰しも、得手不得手があるものだ。だから、適材を適所に配置する必要がある。

「生姜のチューブと間違えて、歯磨き粉でも入れたの、竹姉」

「そんなに変な味がするの、小梅」

 小梅が置いた匙を手に取り、竹美は小鍋の中身を一口啜る。

「本当だ。謎の清涼感があるわね」

「何を入れたのよ」

「忘れたわ。でも、食料品か調味料であることは確かだから、安心して」

「まったく。レシピ通りに作って出す前に味見してって、いつも言ってるのに。これじゃあ、熱は下がっても、お腹を壊すわ」

「レシピ通りの道具と材料があるとは限らないじゃない。臨機応変よ」

「いや、変化に対応できてないから」

 アレンジを加える前に、ベーシックをおさえてほしい。切実に願うわ。

「それより、小梅。寝てなくて平気なの」

 竹美は、ローテーブルの上を見ながら言った。天板の上には、原稿用紙が散らばり、青と黒の鉛筆が転がっている。

「薬を飲んだし、熱も下がったから大丈夫。ところで、寿くんは何をしてるの」

「造形展に向けて、牛乳パックとストローで恐竜の骨格標本を作ってるわ。プテラノドンとか、トリケラトプスとか、ステゴサウルスとか。図鑑のイラストを見ながら作ってるんだけど、そっくりよ」

「へぇ。寿くんって、図画だけじゃなくて工作も得意なのね」

「そうみたいよ。でも、音楽は苦手らしいわ。鍵盤ハーモニカの練習もしてたんだけど、ワルツのリズムがつかめなくて苦戦してたわ」

 なるほど。たしかに三拍子系は、馴染みが薄いものね。

「聞こえてたわ。ピアノ経験者として、何かアドバイスしてあげたの、竹姉」

「助言できるほどなら、音楽大学に進んでるわよ」

 ごもっとも。竹姉のピアノは、下手の横好きだものね。


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