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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
40/232

#039「十月末日に」【安奈】

#039「十月末日に」【安奈】


「いけません、お嬢さま。その日は、日本舞踊のお稽古があります」

 呆れ半分に諌める目黒。安奈は燕尾服の袖を掴み、駄々を捏ねる。

「そこを何とかなさい、目黒。お父様に言いつけて、暇を出させるわよ」

 したり顔で言い放つ安奈に対し、しれっとした表情で続ける目黒。

「では、奥さまから紹介状をいただいてまいります」

「むぅ。そう来るのね」 

「この手のやりとりは、過去に幾度となく繰り返しておりますので」

 あしらいに慣れてるわね、この老兵。死線苦戦を乗り越えてきただけあるわ。

 口をへの字に曲げ、頬を膨らませ、目黒を睨む安奈。

「そのような目で射られましても、考えを変えるつもりはございません。せっかくの美人が台無しですからおやめなさい、お嬢さま」 

 フッと息を吐き、袖から手を離す安奈。

 情に訴える作戦が効かないなら、情報で責めるまでよ。

「ご理解いただけたようですので、持ち場に戻りますね」

「待ちなさい、目黒。最近、気になってる人物が居るのを知ってるのよ、私」

 安奈の発言に対し、目黒は白々しく首を傾げる。

「はてさて。それは、どなたのことでしょう」

「とぼけても無駄よ。使用人室のパソコンの検索履歴に、未亡人について執拗に検索した痕跡が残っていたとのリークがあったの」

「使用人室のパソコンは四人の共用ですから、誰が調べたものか特定できるものではありませんし、仮に特定されたとしても、思いを寄せる相手が居る証拠にはなりません。論理に飛躍がございますよ、お嬢さま」

「これは目黒が使った直後に調べた人物からの情報で、検索された日付が、運動会や日曜参観の前日に集中してるそうなんだけど、これを偶然で片付けるには、ちょっと無理があるんじゃなくて」

 これでどうだとばかりに両手を腰に当て、フンと鼻を鳴らす安奈。

 さぁ、白状なさい、目黒。

「致し方ないですね。口止めの意味でも、要求を呑むことにいたしましょう」

 肩を落とし、やれやれといった調子で溜息を吐く目黒。

「それじゃあ、準備してくれるわね、ハロウィン」

「えぇ。日本舞踊の師範には、拠所ない事情があるとでも伝えておきます。ただし、他人の痛くもない腹を詮索という下世話な真似をするのは、今回でおしまいにしてくださいよ、お嬢さま」

「わかったわ。この作戦は、今回で封印します」

 また別の作戦を考えるまでだけど。情報提供者の赤城には、あとで御礼を言っておかなくちゃ。

「歳のせいか忘れっぽくなったので、念のため確認しておくのですが、お嬢さまが魔女、寿さまが狼男、それから二人用に南瓜を刳り抜いたランタンとキャンディー類を用意すればよろしいのですね」

「そうよ。頼んだわ」

「承知いたしました。では、失礼いたします」

 片手を胸に当てて会釈をし、足早に子供部屋を立ち去る目黒。目黒が立ち去るやいなや、ベッドにうつ伏せで飛び込んで枕に顔を埋め、両足をパタパタとバタ足のように動かす安奈。

 わぁ、今から楽しみになってきちゃった。


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