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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
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#003「あかつき」【竹美】

#003「あかつき」【竹美】


 寿くんのおやつを買いにケーキ屋に行こうとしている、はずなんだけど。

 手を繋いで歩く寿と万里の斜め後ろを、半歩下がって歩く竹美。

「僕は、ショートケーキが良い」

「そう。でも、苺大福も美味しいわよ」

「苺なら、ミルフィーユという手もあるわ。どっちにしてもケーキ屋に行くからね、お母さん」

 なぜかお母さんは、私たちを執拗に和菓子屋へ誘導しようとしているので、先程から軌道修正を繰り返している。まったく。金星気象衛星並みに暴走するんだから。

「栗饅頭や芋羊羹も美味しいわよ」

「モンブランやスイートポテトのほうが良いわよね、寿くん」

「もんぶらんって何。ケーキなの」

 寿は竹美のほうを向き、小首を傾げる。

 ショートケーキ以外のケーキは、あまり知らないみたいね。

「そうよ。栗をたっぷり使った美味しいケーキなの」

「へぇ。ショートケーキより美味しいの」

「同じくらい美味しいわ。他にも、林檎のタルトタタンやシブースト、チョコレートいっぱいのザッハトルテやガトーショコラもあるわよ」

「すごいね、竹姉ちゃん。ケーキに詳しいんだ」

 言い終わると、竹美はチラッと万里のほうへ視線を走らせた。

「和菓子屋さんには、三色団子やどら焼きが」

「お母さん、諦めなさいよ。何で、そんなに執念深いの」

「最近、あのお店に弟子入りした職人さんが男前でね」

 そっちが理由か。

「だいたい、いい歳してイケメンを目当てにするなんて」

「万里は、まだ、十六だから」

 竹美は万里の手から寿の手を奪い、反対の手で寿の両目を覆った。

 ええい、親指と人差し指をエル字にして顔の横にあてるな。感傷旅行は一人でやれ。

「わっ、真っ暗」

「教育上不適切な映像が流れたから、ちょっと我慢してね」

「何よ。実の母親を何だと思ってるわけ」

「年甲斐も無くぶりっ子の真似をする、痛々しいおばさん」

「ぶりっこって」

「失礼ね。たとえ身体は年老いても、心は常に若々しくあるべきものよ」

 いつまでも夢見る少女でいられないわよ。

 竹美は寿の顔から手を除き、寿の目をジッと見て言う。

「夜、伯母さんと寝室で眠ってるときにパジャマを脱がされそうになったら、大声で助けを呼んでね。すぐに一一〇番するから」

「わかった。何で、おまわりさんを呼ぶの」

「いくら、ご無沙汰だからって、そんな見境のない真似しないわよ」

「どうかしら。手を出せないように、そのうち、お姉ちゃんや小梅と交替で寝かせるようにしなくちゃいけなくなるかも」

「僕、お姉ちゃんたちと一緒に寝なきゃいけなくなるの」

「竹美。あなたのほうが、よっぽど教育上不適切よ」

 話が逸れた隙に、角を曲がってしまおう。こっちの道に進めば、和菓子屋へは行けないもんね。

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