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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
38/232

#037「鰯頭鯛尾」【竹美】

#037「鰯頭鯛尾」【竹美】


 鰯の頭をせんより鯛の尾につけ、とは言うけれど。

 竹美と風華は、部室の一角を占拠しながら話し合っている。テーブルの上には、筆記用具や缶飲料の他に、業界地図、四季報、自己分析シートなどが置かれている。

「迷うわよね、竹美。私も、決定回避の法則を発動したくなってきた」

 そう言いながら、風華は片手を空中で動かし、その場に存在しないカードをめくる真似をした。

 風華のターンだったのね。それはマジックなのかしら、それともトラップなのかしら。名前からすれば、モンスターでは無さそうだけど。

「大企業の末席に滑り込むか、中小企業に潜り込んでトップを目指すか、それとも、いっそのこと自分の企業を立ち上げるか。いずれにしても、選択肢が多すぎるわよね」

 竹美が、軸に大学就職課の銘が入ったボールペンを回しながら答えた。風華はレモンティーを一口飲んでから、竹美の返事に続ける。

「ひとまず、新卒一斉採用による貴重な職業選択の自由を手放すのは惜しいから、三番目は切り札として温存するとして。何かしら、指針が欲しいところよね」

 そうなのよね。自己分析や業界研究が進んで、具体的な職種や企業を絞り込もうとした矢先、ハタと迷い始めちゃったのは、自分に合った企業を選んでいるはずが、入りたい企業に自分を合わせていることに気付いてしまって、自分を見失ってしまったからよね。

 竹美がボールペンのノック部分をこめかみに当てて思案顔を浮かべていると、風華は勢い良く立ち上がった。

「えぇい、辛気臭い。ここは一つ、経験者にアドバイスを貰おうではないか。というわけで行くわよ、竹美」

 缶の中身を一気に飲み干し、テーブルにあるものをトートバッグに乱暴に詰め込むと、風華は竹美の腕を引いた。

「ちょっと待って、風華。誰に助言を請うつもりなのよ」

 竹美は、慌ててハンドバッグを持ち、立ち上がった。

「決まってるじゃない。練習が終わるやいなや即効で自宅に帰った、薄情な男の家に押しかけるのよ。善は急げ。思い立ったら吉日よ。クロノスとフォルトゥーナは待ってくれないわ」

 鉄砲玉のように勢い良くドアを開けて飛び出す風華。竹美は、ハンドバッグの中から部室の鍵を出し、静かに扉を閉めて施錠すると、急いで風華の姿を追った。

 風華のこういうところは、フットワークが軽いと書けばアピールポイントなんだろうけど、私には考えなしに行動するようにしか思えないわ。ライフがゼロになる前に、手札を切らしてドローできなくならなきゃいいけど。まぁ、袋小路を打開するには有効策ね。ここは一つ、鰯の頭を信じてみよう。


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