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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
33/232

#032「真実と虚構」【竹美】

#032「真実と虚構」【竹美】

 

 家の主がげっそりした様子だったので何かと思ったけど、奥から聞こえてきた先客の能天気な声ですべてを悟った。

「急に呼び出して悪かったな、二人とも」

 廊下を先導して歩きながら、永井は竹美と風華に声を掛けた。

「おつかれさまです、永井先輩」

 永井に同情する竹美をよそに、風華はきょろきょろと不躾に見回している。

「へぇ。ここが永井先輩の家か。竹美の言う通り、スタイリッシュな家だ」

 永井がリビングのガラス戸を開けると、扉の向こうでは長一がソファーに座り、リモコン片手に録画した番組を観ようと待ち構えていた。 

  *

 番組の途中で眠りこけてしまった風華の面倒を永井に任せ、長一は竹美をベランダに連れて行った。

「少し肌寒いけど、中の二人には聞かれたくないから、ちょっとのあいだ我慢してね」

 長一は、ベランダの欄干に両腕と顎を乗せた姿勢で話し始めた。

 何を話すつもりなのかしら。

「これから話すことは、他言無用だから。たとえ家族であっても、話しちゃ駄目だよ。あくまでも、これは君が、これまで次郎が付き合ってきた軽い女性とは違う何かを持ってると思うから話すんだ。いいね。約束できるかい」

「はい。約束します」

 竹美は背筋をピンと伸ばし、はっきりと答えた。

「そんなに鯱張ることないよ。そういうことがあったんだって、過去の話として参考程度に受け止めてくれれば良いから。――あのね。次郎が他人に壁を築くようになったきっかけは、七年前の夏。僕が高校生で、次郎は、まだ中学生だった頃のこと。僕たちの母さんの自殺が原因なんだ」

 そんな、昨日の晩御飯は塩鮭だったみたいな調子で、さらっと言ってしまって良いことなのかしら。

 竹美の不安を知ってか知らずか、そのまま天気の話でもするように続ける長一。

「運の悪いことに、次郎は第一発見者として凄惨な現場を目撃してしまってね。一生消えないトラウマだよ。加えて、取調べで痛くもない腹を探られたものだから、すっかり人間不信に陥ってしまってね。大事な存在を再び失いたくないばかりに、他人を大切にしないようになったんだ」

「そんなことって」

 ありえないってこともないけど、とても軽々しく扱えないわ。本当かしら。

 長一は、思案顔の竹美のほうを見て、さらに話を続けた。

「疑ってるね。残念ながら、今日は四月一日じゃないし、さっきのドキュメンタリーに触発された作り話でもないよ。ただ、表向きは心不全ということになってるし、真実を言いふらしたところで、遺体も無ければ、現場に痕跡もないから、誰も相手にしないだろうね」 

 長一は欄干から上体をのけると、リビングのほうへ歩き、境目のガラスサッシを開け、竹美のほうを振り返った。

「ショッキングなことを言ってごめんね。でも、次郎のことを知っておいてほしかったんだ。寒くなるから、中に入ろう」

 竹美は、長一のあとに続いてリビングへと戻った。

 仮に今の話が、本当に嘘偽りの無い事実だったとして、私には何が出来るっていうの。

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