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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
25/232

#024「あたため直し」【竹美】

#024「あたため直し」【竹美】


「優秀な学生さんだね」

「そんなことないですよ。至って普通です」

 コーヒーを飲みながら、永井、長一、竹美の三人は、リビングでテーブルを囲んで歓談している。そして窓辺では、カーテンがはためいている。

「前期フル単なら、あとは教職と必修のゼミだけだって自慢してたのは、どこの誰だ」

 永井はコーヒーをひと口啜り、おもむろに口を開いた。

 他人がこつこつ努力してることを、嫌味の口実に使わないで欲しいわね。

「一つでも単位を落としたら五年生確定の永井先輩には、言われたくないですね」

 当てこすり合う永井と竹美を見て、長一は口に手を当ててくすくすと笑った。

「あっ、先生になるのか。それなら、一般企業は受けないのかな」

「いえ。あわよくば教員免許が取れたらという程度なので、普通の就活もします」

「なら、うちの会社を受けてみないかい。君なら、きっと試験をパスできるよ。ホワイトな職場だというのは、僕が保証するよ。業績はブラックだけどね。えへへ」

「思わせ振りなことを言って、変な期待を持たせるなよ。図に乗ったらどうするんだ。人事権もないペーペーのくせに、無責任なことを言うな」

「おあいにくさま。私はどこぞの誰かと違って、何とかしてくれるだろうと甘く見積もって油断するような馬鹿じゃないわ」

 にやにやと不敵な笑みを浮かべ、長一は竹美に話しかける。

「一次の筆記試験と二次のグループディスカッションを突破できないと、三次の役員面談には進めないからね。いくら社長の息子でも、個人の一存で採用されないよ。僕だって、ちゃんと履歴書とエントリーシートを書いて郵送したもの」

「あっ、そうなんですね」

 家族でも、コネで即採用という訳では無いんだ。

「頭の切れる、賢いお嬢さんだ。何なら、永久就職という手もあるよ。ねっ、次郎」

 長一が口角を上げて永井のほうを見ると、永井は眉間に皺を寄せて答えた。

「俺は生涯独身を貫くと決めていると、前々から言ってるだろう」

「えー、もったいないな。美男美女カップルで、沈魚落雁の一姫と明眸皓歯の二太郎、ついでに眉目秀麗な三茄子もおまけして」

「待て。富士と鷹は、どこへ行った」

「それ以前に、私は美女じゃありません」

 見当違いなツッコミを入れる永井と竹美に、長一はクククと笑い、さらに話を続ける。

「立派な美人さんだと思うけどな。謙遜しなくて良いのに。まっ、控え目なところも美点の一つだけどね」

 買いかぶってる気がするけど、あんまり謙遜し続けるのは卑屈に映るかしら。

 竹美は、何気なく時計に目を向けた。


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