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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第一部
24/232

#023「十月祭、前」【万里】

#023「十月祭、前」【万里】


 悲報。長女が恋愛に疎すぎる件について。

「何で、そんな言い訳がましいことを」

 ノリノリでアドバイスを送る万里と、対照的に冷めた反応をする松子。

「ニブチンね。デートのためにチケットを買いましたと言ったら、それこそ恩着せがましいじゃない。だから、偶然を装うの。初歩的なテクニックよ」

「策士、策に溺れるという言葉が」

「そういうことを言わないの。人生初のデートの誘いなのよ、松子。少しは動揺して戸惑いなさい。喜び半分に困りなさい」

「どんな命令よ。何か勘違いしてるんじゃ」

 呆れる松子を尻目に、ワードロープを物色する万里。

「フレアスカートとか、デコルテラインのワンピースとか持ってないの」

「あるわけないじゃない。そんな服、いつ来て行くのよ」

「今よ、今。ナウ、オンタイム」

「色気ゼロの普段着姿を知ってるのに、わざわざ着飾らなくたって良いわよ」

「良くなーい。誘われた側は、『あなたのことを特別に思って、今日は張り切っておめかししました』ってことを、誘った相手に見た目で伝えなきゃいけないの」

「直接そう言っちゃ駄目なの」

「駄目よ。あくまで言外に匂わせることがポイントなの」

「面倒な手段を取るのね」 

「いいから、デートの達人の言う通りにしなさい。ほら、持ってる服を出して」

「はいはい。仰せのままに」

 万里に言われるまま、ワードロープから自分の服を出していく松子。

  * 

「これで全部よ」

 ものの数分で、子供部屋のローテーブルの上には、ネイビー、ベージュ、グレーの地味な色合いの服の小山が出来た。

「これだけなの」

「フランス人は、服を十着しか持たないという俗説が」

「そういうこと言って逃げないの」

 竹美や小梅の服と一緒に置いてあるから気付かなかったけど、松子専用の服は、案外少なかったのね。お洋服に興味がないとは思ってたけど、ここまで無関心だとは思わなかったな。

「竹美や私の服じゃ小さいし、この際だから新しく買いましょう。私が用立ててあげるから」 

「とか何とか言って、ハンサムボーイのいるブティックに連れて行く気なんでしょう。その手は桑名の焼き蛤よ」

 ぐっ。こういうことだけ鋭いんだから。

「図星なのね」

 松子は手を腰に当て、がっくりと溜息を吐く。

「良いじゃない。あと三ポイントで粗品が貰えるのよ。協力しなさい」

「見事に、店側の戦略に嵌ってるわね。参考までに聞くけど、カードの有効期限はいつまで」

「初回から一年間」

「今、何ポイント目なの」

「十七ポイント」

「一ポイント、いくら」

 片手をパーにして松子に見せる万里。

「五百円か」

「ううん、もう一つゼロが」

「貢ぎすぎよ」

「だってぇ」

「だってじゃない」

 立て膝をついて松子の服の裾を掴み、うるうるとした目で見つめる万里。

「はぁ、しょうがない。満了にしてあげるわ」

 松子は万里から顔を背け、片手で顔を覆うと、背筋を伸ばし、万里に向かって人差し指を突きつける。

「その代わり、そのあとは一切店に立ち入らないこと。良いわね?」

「そんな、殺生なことを言わないでよ。テキサスのように広い心で受け止めて」

「駄目よ。私の心は、ロードアイランドのように狭いの」 

 悲報。長女が実母に冷酷すぎる件について。

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