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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
231/232

未来編⑥「盂蘭盆会」【万里】

未来編⑥「盂蘭盆会」【万里】


 西暦二〇二七年、夏。十年にわたる変化の大波が収束した。みんな収まるべきところに収まったというのが、私の実感。今日は円禅寺で、親戚が集まって法事をしている。

 万里がほうじ茶を啜っていると、ハンカチを持った恵子が姿を現す。

「あら。万里ちゃん一人だけなのね。松子ちゃんは」

 そう問い掛けながら、恵子が万里の隣にある座布団に座ると、万里は可笑しそうに口元を片手で覆いながら言う。

「何でも、松吾くんが襖を破いちゃったらしくてね。耳を引っ張りながら、和尚さんのところへ連れて行ったの」

 喚き散らす松吾くんと、それを睨みと言葉攻めで静かにさせる松子のドタバタは、見てて愉快だったわ。当事者にとっては、堪ったものじゃないでしょうけど。

「あらあら、大変だ。小学校に上がったばかりだっけ。ヤンチャ盛りね。一平と成二も、昔は二人で、しょうもない悪戯をしたものよ。竹美ちゃんのほうは」

「美咲ちゃんと一緒に、お庭のほうへ行ったわ。退屈だったんじゃないかしら」

「お説法が長かったものね。幼稚園児でなくても苦行だわ。耳年増で口達者なところもあるけど、そういうところは年相応ね。そういえば、今日は小梅ちゃんは来てないんだっけ」

「えぇ。足掛け十年の恋を実らせた彼と、思い出の広島へ新婚旅行に行ってるの」

「あぁ、そうなの。それは、法事どころじゃないわね」

 恵子は感心したような口調で言いながら、座卓の上にあるお盆を引き寄せ、空の湯呑みに急須のほうじ茶を注ぐ。渋い顔をしながらほうじ茶を啜っている恵子に、万里は真面目な顔をして言う。

「この前のお話なんだけど、やっぱりお断りするわ」

 万里の発言を聞いた恵子は、顔に落胆の色を見せつつ、努めて何でもない風を装った口調で言う。

「あぁ、そう。それは、博のことが気になるからかしら」

「えぇ。老いらくの恋を否定する訳じゃ無いんだけど、私の人生のパートナーは、生涯一人きりにしたいの」

「そう。それじゃあ、先方にそう伝えておくわ。それで良いのね」

「えぇ。せっかく紹介してもらったのに、申し訳ないんだけど」

「気にしなさんな。うまいこと言っておいてあげるから。――ここは私が見ておいてあげるから、万里ちゃんも、博に挨拶してきたら、どう」

 恵子が明るくで提案すると、万里は硬くなっていた表情を綻ばせながら、それに応じる。

「そうね。それじゃあ、ちょっと席を外すわね」 

「行ってらっしゃい。ごゆっくりどうぞ」

 万里は席を立つと、墓苑のほうへ足を進めた。


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