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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
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未来編③「大学ライフ」【小梅】

未来編③「大学ライフ」【小梅】


「額に、お公家さんの眉みたいな模様があって、可愛いわね。ダックスフントでしょう」

 ソファーに並んで座りながら、小梅と英里が話している。その眼下では、カーペットの上で仰向けになった山下の胸の上には仔犬が乗っかっており、仔犬は舌でペロペロと山下の顔を舐めている。

「そうよ。ミニチュア種なの。毛が短くて艶々してるから、さわり心地抜群よ」

「へぇ、そうなんだ。お手とか、お回りとか、何か、芸は出来るのかしら」

「新聞とか、靴下とか、物によっては、その名前を言うだけで床に落ちてるのを拾って銜えて運んでくるわよ」

「あら、賢いわね。介助犬になれるんじゃないかしら」

「穴を開けることが無ければね。ボロボロになったら自分の玩具として貰えることが分かってるから、わざと歯形を付けてくるの」

「犬も犬並みに学習して、知恵を働かせるのね」

 山下は仔犬の長い胴体を両手で掴んで持ち上げると、身体を起こして立ち上がる。

「よし、掴まえた。懐いたと思った途端に飛びついて、顔を涎まみれにしやがって。俺はムツゴロウじゃないってのに」

 有明海の不思議な魚では無いほうのね。

「ほら、鶴岡。俺が押さえてるから、背中を撫でてみろよ」

 山下は胴体を持ったまま小梅に近付き、仔犬の背中を手元に近寄せる。小梅は、おずおずと背中に手を近付け、そっと撫でる。

「あっ、本当。高級な絨毯かソファーみたい」

 小梅がシンプルに感想を言うと、英里はニヤニヤと仔犬を見ながら言う。山下が仔犬を足下に下ろすと、仔犬は走って玄関のほうへ行く。

「敷物やカバーにするには、毛皮の量が足りないわね。いいとこ、マフラーかしら」

 そう英里が言ったとき、帆布で出来た肩掛け鞄を背負った作業着姿の吉川が姿を現す。

「いらっしゃい。二人とも、もう来てたのか」

 仔犬を小脇に抱えて歓迎ムードの吉川に対し、山下、小梅、英里は三者三様の答えを返す。 

「さっき着いたところなんだ」

「お邪魔してます、吉川くん」

「おかえり、マルコ」

 三人に対し、百面相をしながら返事をする吉川。

「言ってくれれば、駅まで迎えに行ったのに。久し振りだな、鶴岡。聞こえてるぞ、松本。俺は、母を訪ねて三千里も旅しない」

 吉川の発言に対し、またしても三者バラバラに言葉を投げかける山下、小梅、英里。

「吉川の場合、本気で探そうと思ったら、黄泉路を旅することになるもんな」

「英里ちゃんとの同棲生活はいかが、吉川くん」

「不平や陰口を叩いたら、即刻、パパに連絡するわよ」

 吉川は仔犬を足下に放し、両手で耳を塞ぎながら言う。

「あぁ、もう。一度に別々のことを言わないでくれ。俺は、大陸横断クイズの出場者じゃない」

 ニューヨークへ行きたいか、とでも言えば良いのかな。聖徳太子には敵わないわね、吉川くん。

  *

 ボーイズが散歩に行ってるあいだに、ガールズトーク。

「まさか、四人で同じキャンパスに再集結するとは思わなかったわ」

 山下と吉川、それから仔犬が居なくなったワンルームで、英里と小梅はソファーで寛ぎながら、他愛もないお喋りをしている。

「同感だわ」

 山下くんとは、事前に同じになると判ってたけどね。

「それより英里ちゃん。アニメ『オジョタン』のドラマシーディーで、気付いたことって何」

 英里ちゃんが吉川くんとどんな暮らしをしてるかを知るのも目的だったけど、本題は、こっち。ちなみに、アニメ「オジョタン」とは、マンガ「お嬢さまは探偵ですの」がアニメ化されたもの。原作の雰囲気を忠実に再現した仕上がりになっており、中でも主役二人の声を担当した声優は、はまり役だと絶賛されている。

「ふっふっふ。私の耳を侮ってもらっちゃ困るわ。助手の少年役の声に、どこかで聞き覚えがあると思ってリサーチをしたら、ある人物だと特定できたの」

 どうやってリサーチしたかは、この際、不問とするとして。

「えぇ、誰だろう。声優名は、テルミン中山よね」

「ヒント。彼女は中学時代、放送部に所属してました。出身校は、かごめ中学校です」

 いやいや、答えを言ってるようなものじゃない。その条件に該当するのは、一人しか居ないもの。

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