過去編④「思い出」【万里】
過去編④「思い出」【万里】
「かーごめ、かごめ。かーごのなーかの、とりは。いついつ、でやる。よあけの、ばんに。つーるとかーめが、すーべった。うしろのしょうめん」
「だーぁれ」
万里がベビーベッドの側に立ち、小梅を抱きかかえながら子守唄を歌って寝かしつけていると、そこへ足音を忍ばせて博が背後から近寄り、両手で万里の目を覆う。突然の出来事に一瞬、戸惑いを見せながらも、すぐに口元を緩めて言う。
「聞く人を安心させる優しいテノールボイスと、この柔らかくて大きな手は、間違いなく博さんね」
「フフッ、正解」
博は両手を万里の顔から退けると、小梅の顔を覗きこみながら言う。
「まだ寝てないようだね。――駄目だぞ、小梅。夜はグッスリ眠らないと、いつまでも身体が小さいままだ」
「言葉で説得したって、理解できないわよ」
「そうかな。言葉で返事をできないだけで、気持ちは伝わってるかもしれないよ。――パパの言うこと、わかるよな。ママが困ってるから、夜は早くおねんねしような、小梅」
まぁ、立派な親馬鹿だこと。
博が小梅に向かって話しかけていると、小梅は目を閉じ、寝息をたて始める。
「あら、本当に寝ちゃった」
「ほら、ごらん。こんな小さい子でも、真摯に接すれば、思いが伝わるんだよ」
紳士違いな気がするけど。
万里は、そっと小梅をベッドに寝かせると、肩口まで毛布を掛け、ポンポンと軽く胸の上を叩く。そして、博のほうを向いて言う。
「竹美は、もう寝たのかしら」
博は、小梅から万里に視線を移動させて答える。
「いいや、まだだよ。この本を読み終わったら寝るって言ってたから、少し時間を置いてから、また様子を見に行くよ」
竹美は、本が好きなのね。でも、ほどほどにさせなくちゃ。
「フゥン。松子も、まだダイニングに居るのかしら」
「あぁ、居るよ。明日の予習をしてたから、身体を冷やさないように、ホットココアを作ってあげた」
ちゃんとミルクパンで温めて作るのよね、博さんは。
「そう。お勉強は結構だけど、あんまり頑張り過ぎないように、あとで私から言っておくわ」
「そうだね。向学心旺盛なのは感心だけど、無理して風邪を引いたら大変だ」
そう言うと博は、俯き加減で、ふと寂しげな表情をする。
「今の気持ち、当ててみるわ。うーん。『一人くらいは男の子が欲しかった』かしら」
「正解だよ。欲張ったらキリがないけど、三人とも女の子だとは思わなかった」
そうね。私も、一人くらいは男の子を産んであげたかったわ。
*
「ただいま、ママ」
「おかえり、小梅。嬉しそうね。何か良いことがあったの」
「ウフフ。あとでゆっくり話してあげる。先に、荷物だけ置いてくるから」
そう言うと、小梅はドタドタと音を立てながら勢いよく階段を駆け上っていく。
雌ばかりの籠の中の鳥は、あと一羽ね。




