過去編③「硝子に」【竹美】
※シリアスな話です。暗く重たい話が苦手な方は、読み飛ばして過去編④へお進みください。
過去編③「硝子に」【竹美】
大丈夫という言葉には、どこか後ろ向きな諦めが込められている。それを痛感したのは、凍てつくようなあの夜のことだった。
場所は鶴岡家のリビングだが、ソファーはダイニングへ移動させてあり、壁には鯨幕が引かれ、棺桶が安置されている。その祭壇の左右には、花輪が飾られている。その近くで松子、竹美、万里の三人は正座をして沈黙を保っていたが、そこへ恵子が現れ、万里に声を掛ける。
「小梅ちゃんの面倒は、お母さんと謙に任せて良いから。それと火葬場のほうの手配は、私が全部済ませたから」
「すみません、何から何まで。本来は、どれも私がやらなきゃいけないことなのに」
万里が軽く頭を下げて恐縮しながら言うと、恵子は片手を振って否定し、そして手招きする。
「良いってことよ。大切な人を失って、すぐに気持ちが切り替えられるものじゃないわ。それより万里ちゃん、ちょっと相談があるんだけど」
松子と竹美のほうをチラチラ見ながら恵子が言うと、万里は話の内容を察して立ち上がり、松子と竹美に向かって一声掛けてから、その場をあとにする。
「悪いけど大人だけの話をしてくるから、ここで待っててちょうだい」
「わかったわ。竹美も、良いわね」
松子が竹美のほうを向くと、竹美は小さく頷きを返す。
*
甘えたいと思いながらも、一番年上としてしっかりしなきゃと考えてる立派なお姉ちゃんと、何をするにも三姉妹で分け合ったり使い回したりしなければならないことが嫌で、新品を独り占めしたいと思っている我がままな小梅。そして、しっかり者の姉と甘え上手な妹に挟まれて、どこかに愛情の薄さを感じている私。
「お姉ちゃんは、お父さんが居なくても平気なの」
泣き腫らした眼で上目遣いをしながら言う竹美から視線を逸らし、松子は静かに語る。
「そりゃあ、平気じゃないわよ。というか、不便よ。お母さんは、ぜんぜん頼りにならないし、小梅は、父親の不在を今ひとつ理解できていないみたいだし。でも、安心して。大丈夫だから。お父さんが居なくなった穴は、私が埋めるわ。きっと、大丈夫。大丈夫よ」
その言葉。私に向かって言ってるんじゃなくて、自分に言い聞かせてるだけよね、お姉ちゃん。だって、今にも泣き出しそうな顔をしているもの。




