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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
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過去編②「子育て」【万里】

過去編②「子育て」【万里】


「ママ。マーマー」

「はい、はい。あと少しで出来るから、もうちょっと我慢してねぇ」

 小梅がベビーチェアに座ってスプーンを振り回しているのを横目で見ながら、万里は雪平鍋に入れた十倍粥とすりおろした人参を、木箆でかき混ぜている。そこへ、竹美が青い表紙に「ブルグミュラー」と書かれたスコアブックを持って現れる。

「ねぇ、お母さん。さっきからピアノの前で待ってるのに、どうして来てくれないのよ。やっと『貴婦人の乗馬』が弾けるようになって、レッスンの先生にも褒めてもらえて、お家の人にも聴いてもらいなさいって言われたのに」

 竹美が口を尖らせて万里に不満をぶつけると、万里は申し訳無さそうに眉を下げながら言う。

「ごめんね、竹美。小梅に離乳食を食べさせたら、すぐに行くから、もうちょっとだけ待ってちょうだい」

「もうちょっと、もうちょっとって、いつも待たされるのは私じゃない。お母さんは、私より小梅のほうが大事なの」

 親として子供から言われて困る質問ベストファイブにランクインしてそうな、辛辣きわまりない竹美の発言に、万里は鍋の中身をプラスチックの茶碗によそいつつ、困り顔を浮かべる。

 お姉ちゃんなんだから、と言ったところで納得しないわよね。私も、昔はお母さんからよく言われたけど、溜飲が下がるものではなかったもの。

「マンマ。マンマ」

「うるさい。お母さんは、小梅だけのものじゃないのよ」

 竹美が小梅に噛みつくように言うと、万里は竹美に厳しい口調で叱る。

「こら、竹美。八つ当たりしないの」

 険悪な空気が流れる最中に、二本のテニスラケットを持った博が姿を現す。

「おや。どうしたんだい」

「あら、博さん。松子は、どうしたの」

「松子が打ったボールが、お隣の庭に飛んでしまってね。自分が取りに行くから、先に戻って休憩するようにと言われて、任せてきたんだ。――楽譜なんか抱えて、何をしてたのかな、竹美」

「あのね、お父さん。お母さんったら、ずっと小梅にかかりきりで、私の演奏を聴いてくれないのよ」

「そうか。それなら、お父さんが聞いてあげよう。先に上がって待ってなさい」

「はーい」

 竹美はパタパタと廊下に駆け出し、トントンと軽快に階段を上っていく。そんな元気な足音を聞きながら、博は万里に向かって言う。

「大変だったな、万里」

 万里は、小梅の手からスプーンを取り、離乳食を食べさせながら博に言う。 

「博さんもね。たまの日曜なのに、テニスの相手をさせてしまって。――熱いから、フウフウしてあげますね」

「構わないよ。平日に構ってやれない分を、まとめてサービスしてるだけさ」

 テニスだけにね。

「それじゃあ、竹美のことを頼むわ。――はい、人参さんですよ」

「あぁ、任せなさい。降りてくるまでに、機嫌を直しておくよ」

 博はラケットを空いている椅子に置いて廊下に向かい、そして静々と階段を上っていく。

 私や子供たちのために、無理をしてなきゃ良いんだけど。階段を上る足音に、堆積した疲労を感じるわ。  

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