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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
222/232

過去編①「純白の」【万里】

過去編①「純白の」【万里】


 小梅は観音院家にアルバイトに行ってるし、今日は誠が休みだから寿くんたちは来ないし、私もパートが休み。

「静かだわ。我が家ではないみたい」

 窓辺で立膝を突き、米の研ぎ汁を浸したクロスで観葉植物の葉を拭いていた万里は、ふと手を休めて立ち上がり、大きく息を吸いながら両手を後ろに組んで胸をそらすと、息を吐きながら手を解き、何を探すともなくリビングを見渡し、フォトフレームに目を留める。

「あの日も、たしか、こんなうららかな陽気の、静かな日だったわね」

 万里は、目線を左上に向ける。

  *

「今年の七月、つまり再来月に、空から恐怖の大王が降ってくるという噂だけど、本当だったら、どうする」

 ソファーに座っている博が、横に座っている万里に小声で問いかけると、万里も小声で応じる。博の膝元では、まだ幼い竹美がすやすやと眠っている。

「あら、博さん。あの予言を信じてるの」

「そういう訳じゃないけどさ。本当に再来月で人類が滅亡するとしたら、万里は、それまでに何をしたいかなぁと思って」

 万里は首をかしげ、髪を指でクルクルと弄びつつ、目線を左下に向けながら答える。

「そうねぇ。二ヶ月なんて、あっという間だから、何かしたいと思っているうちに、いつの間にか過ぎてしまって、結局、いつも通りに過ごしてしまいそうな気がするわ。博さんは、何か考えがあるのかしら」

 そう言って万里が手を膝の上に置き、博のほうを見つめると、博は背凭れに片腕を乗せ、指を額に置きながら話し出す。

「夢みたいな話で、現実には難しいだろうけど、もし予言が確からしいものだとしたら、まず、銀行を辞めるかな。それから、資産を現金化して、貯金を全額引き出して、四人で世界一周するんだ。見たい場所や、見せたい風景、させたい経験がいっぱいあるから、リストアップして一個一個クリアしていくのさ」

 瞳を輝かせて語る博に、万里はうっとりしながら聞き入り、やがてリアクションを返す。

「素敵な計画ね。面白そう」

「そうだろう。あぁ、でも」

 博は一度言葉を区切ると、眠りこけている竹美を見ながら、それまでとはワントーン調子を下げ、しんみりとした口調で言う。

「松子や竹美が大人になった姿を見られないのは、残念だな。きっと、綺麗になるだろうに」

 そうね。二人の花嫁姿を見られないのは、残念至極だわ。

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