#209「コネクション」【小梅】
#209「コネクション」【小梅】
ノードとリンク。どこで誰が誰と繋がってるかは、なかなか、わからないものである。インターネット上だけではなく、現実世界でも。……これだけでは、何が言いたいのかサッパリだろうから、時系列に何が起こったかお伝えしましょう。
はじまりは、今日の朝。後学のため、と衣装の参考のために、松姉の着付けを見学することにしていた私は、鞄にスケッチ用のメモと鉛筆数本、それから、退屈しのぎ用にオジョタンの一巻を入れて待機した。
次に、今日の昼前。予想以上の大豪邸に圧倒されながらも、着せ替え人形と化した松姉のスケッチに取り掛かる。数十分後、サラサラッと数枚のラフ画が完成する。ここまでは、おおむね順調。予定通り。
で、問題は、ここから。松姉の着付けが終わったあと、その担当者である奥さまと二人っきりになったときがあり、そこで、以下のように声を掛けられたのである。
「あなた、ずいぶん素描の手が早いけど、普段、漫画か何か描いてるんじゃなくて」
太ゴシック体でギクッとでも描きたくなるくらい、衝撃的だったわ。隠しても仕方ないと思って二次創作のことを白状したら、更に斜め上の答えが返ってきたの。
「実は、あんまり大きな声では言えないんだけど。私も、少女マンガを描いてるのよ。『お嬢さまは探偵ですの』ってタイトルなんだけど、知ってるかしら」
いやぁ、一瞬、耳がおかしくなったかと思ったわ。訊き直しても、同じ答えが返ってくるものだから、ようやく理解した次第。ダイジェストは、ここまで。続きを、どうぞ。
「それじゃあ、フェニックスなな先生に、間違いないんですね」
「そうよ。私は、旧姓を鳳凰堂といったの。驚かせちゃったわね、ごめんなさい。――はい、どうぞ」
奈々は、サインペンに蓋をしながら、小梅にオジョタンの一巻を手渡す。
「ありがとうございます。大切にします」
やったぁ。直筆サインだ。家宝にしよう。祭壇に祀ろう。
小梅は、両手でマンガを受け取り、鞄の中に仕舞う。
「私も、愛読者に直接会えて嬉しいわ。――あっ、そうだ。ねぇ、小梅ちゃん。あなた今、高校生よね」
奈々が片手を軽く握り、それを反対の手の平にポンと打ちながら、何かを思い出したかのように言うと、小梅は、奈々の出方を窺いながら、おずおずと答える。
「はい、そうです。この春に、一年生になりました」
「あのね。ちょっと虫の良い話で、嫌なら断ってくれても良いんだけど、あなた、アシスタントをしてくれる気はないかしら」
「えっ」
アシスタントというのは、もちろん、漫画家としてよね。
突然の申し出に、小梅が言葉を失って口をパクパクさせながら狼狽していると、奈々が微笑みながら言う。
「単行本が出てから、急に忙しくなってきてね。そろそろ、誰かに手伝ってもらわなきゃ敵わないと思ってたところなのよ。お給料としては、そんなにたくさんあげられないけど、お小遣い稼ぎとしては、割りが良い額を出してあげると保証するわ。どうかしら」
「あのっ。私なんかで、良いんでしょうか」
「良くないなら、端から提案しないわ。それじゃあ、良いのね」
奈々が駄目押しすると、小梅は大きく頷く。それを見た奈々は、満足気にニヤリとしながら言う。
「それじゃあ、式が一段落したら、私についてらっしゃいね。アトリエを見学させてあげるわ」
「はい。ありがとうございます」
まさか、こんなところでアルバイト先が見付かるとは。




