#200「朝に」【小梅】
#200「朝に」【小梅】
「それじゃあ、俺は一組に戻るから」
「そう。じゃあ、また昼休みに」
「あぁ。またあとでな」
廊下側の窓越しに山下と小梅が話していると、ノーネクタイでオレンジのパーカーを羽織り、スラックスをトランクスが半分見えるくらいまでズリ下げて穿き、踵を潰して緑の上履きを履いた茶髪の男が、だらだらと蟹股で歩み寄りながら山下に声を掛ける。
「よぉ、秀。お前も、南だったんだな。てっきり、星雪舎に行ったと思ってたぜ」
誰かしら。竹姉と同じで緑だから、二年生よね。山下くんのことを、よく知ってるみたいだけど。
小梅が訝しげに男を見ているのを感じつつ、山下は男に冷たく言葉を返す。
「先輩。ここは一年校舎ですよ」
「知ってる、知ってる。もう一年、こっちに居なきゃいけなくなっただけだ。ところで、そっちの女は秀の知り合いなのか。クラブのよしみだろう。紹介してくれよ」
なるほど。サッカー部の先輩で、ダブりなのか。
「先輩に紹介する義理はありません。もう俺は、サッカー部の人間じゃありませんから」
山下が突き放すように言うと、男はヒャッヒャと甲高い笑い声をあげながら手を叩き、小梅に対して舐めるような視線を送りながら言う。
「フム。顔は地味だけど、胸はありそうだな。エーマイナスってところか」
男の失礼な発言を聞き、山下は小刻みに手を震わせながら両腕を広げ、小梅と男のあいだに立ち塞がり、小梅の視界に男が入らないようにする。
「用が無いなら、自分の教室に戻ってください」
「何だ、山下の彼女なのか。どこまでいったんだ」
「別に、まだ、彼女というわけでは」
山下が男から視線を逸らすと、男はヒョイっと屈んで山下の腕をかいくぐり、小梅に向かって手を伸ばしながら言う。
「なら、良いじゃねぇか。――どうだ。俺と付き合わねぇか」
咄嗟に小梅は、身を引いて男の手をかわす。それを見た山下が、男のフードを引いて廊下に戻しながら言う。
「やめてください。嫌がってるじゃありませんか」
「嫌よ嫌よも好きのうちって言葉を知らないのか。これだから、お坊っちゃんは」
そこへ、真っ赤なジャージを着た教員が、よく響く怒鳴り声をあげながら駆け寄る。
「何をやってるんだ、そこのパーカー小猿」
「やっべぇ。担任だ」
男は急いで廊下を走り、教員に追い駆けられながら「一年四組」というプレートが掲げられている教室へ入っていった。




