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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
211/232

#200「朝に」【小梅】

#200「朝に」【小梅】


「それじゃあ、俺は一組に戻るから」

「そう。じゃあ、また昼休みに」

「あぁ。またあとでな」

 廊下側の窓越しに山下と小梅が話していると、ノーネクタイでオレンジのパーカーを羽織り、スラックスをトランクスが半分見えるくらいまでズリ下げて穿き、踵を潰して緑の上履きを履いた茶髪の男が、だらだらと蟹股で歩み寄りながら山下に声を掛ける。

「よぉ、秀。お前も、南だったんだな。てっきり、星雪舎に行ったと思ってたぜ」

 誰かしら。竹姉と同じで緑だから、二年生よね。山下くんのことを、よく知ってるみたいだけど。

 小梅が訝しげに男を見ているのを感じつつ、山下は男に冷たく言葉を返す。

「先輩。ここは一年校舎ですよ」

「知ってる、知ってる。もう一年、こっちに居なきゃいけなくなっただけだ。ところで、そっちの女は秀の知り合いなのか。クラブのよしみだろう。紹介してくれよ」

 なるほど。サッカー部の先輩で、ダブりなのか。

「先輩に紹介する義理はありません。もう俺は、サッカー部の人間じゃありませんから」

 山下が突き放すように言うと、男はヒャッヒャと甲高い笑い声をあげながら手を叩き、小梅に対して舐めるような視線を送りながら言う。

「フム。顔は地味だけど、胸はありそうだな。エーマイナスってところか」

 男の失礼な発言を聞き、山下は小刻みに手を震わせながら両腕を広げ、小梅と男のあいだに立ち塞がり、小梅の視界に男が入らないようにする。

「用が無いなら、自分の教室に戻ってください」

「何だ、山下の彼女なのか。どこまでいったんだ」

「別に、まだ、彼女というわけでは」

 山下が男から視線を逸らすと、男はヒョイっと屈んで山下の腕をかいくぐり、小梅に向かって手を伸ばしながら言う。

「なら、良いじゃねぇか。――どうだ。俺と付き合わねぇか」

 咄嗟に小梅は、身を引いて男の手をかわす。それを見た山下が、男のフードを引いて廊下に戻しながら言う。

「やめてください。嫌がってるじゃありませんか」

「嫌よ嫌よも好きのうちって言葉を知らないのか。これだから、お坊っちゃんは」

 そこへ、真っ赤なジャージを着た教員が、よく響く怒鳴り声をあげながら駆け寄る。

「何をやってるんだ、そこのパーカー小猿」

「やっべぇ。担任だ」

 男は急いで廊下を走り、教員に追い駆けられながら「一年四組」というプレートが掲げられている教室へ入っていった。

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