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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
209/232

#199「通学」【小梅】

#199「通学」【小梅】


「このバスは、市役所前、円禅寺経由、市立南高校前行きです」

 自動アナウンスが掻き消されそうなほど、車内は青いシングル二つ釦のブレザーに赤いチェックのネクタイやリボンを結んだ生徒で混み合い、めいめいに文庫本や単語帳を開いたり、世間話に興じたりしている。

「はわぁ。昨日、遅くまで英里ちゃんの長談義に付き合わされちゃったから、寝不足だわ」

 前輪の真上にある一段高い席に座る小梅が、片手で欠伸をしながら言うと、その側で、片手にリュックの肩紐を、反対の手で吊り革を掴んで立っている山下が言う。

「一年のうちは、早起きしなきゃいけないもんな。朝練便よりは遅いけど、それでも七時台だし」

「早く上級生になりたいわね。ところで、山下くんは、もうクラブは決めたの」

 小梅は、膝に乗せたスクールバッグから冊子を取り出す。その表紙には、ポップなイラストと共に「新入生歓迎会二〇一九」と書かれている。

「俺は、写真部にしようかと思ってる。仮入部のときに、夏休みに撮影旅行に行くこととか、さすがにカメラ本体は無理だけど、フィルムや現像代くらいは部費で落ちることとか、そういう話を色々と聞かされてさ。面白そうだと思ったんだ。鶴岡は、美術部なのか」

 写真部のページを開いていた小梅に向けて山下が言うと、小梅はページを数枚めくり、「イラスト研究会」と書かれたページで指を止める。

「私は、ここにしようかと。一応、仮入部で覗いてみたんだけど、高校の美術部は、石膏の像を木炭とパンでデッサンしたり、果物や雑貨を油絵で描いたり、中学までと違って、本格的というか、それこそ芸術大学を目指すようなところがあって、ちょっと違うかなと思ってね」

 小梅が指差すページをじっくり見ながら、山下は感心した風に言う。

「ふぅん、そっか。何にせよ、自分が今やりたいことに忠実になるのが、一番だな。そっちは、中学までと同じような感じなのか」

 山下の疑問に、小梅は少し思案しながら答える。

「うん。だいたい、似たような感じよ」

 英里ちゃんのヲタク度を三割増しにした感じの部長さんがいて、居心地が良かったのよね。

「そうか。それなら、すぐに馴染めそうだな。――そろそろ、到着だな」

 そう言って山下は、吊り革から手を離し、リュックを背負う。 

「市立南高校前、市立南高校前、終点です。お降りの際、傘などお忘れになりませんよう、ご注意願います」


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