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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
193/232

#183「ストレス」【小梅】

#183「ストレス」【小梅】


「そうなんだ。おめでとう、英里ちゃん」

 通学路を並んで歩きながら小梅が祝意を表すると、英里は明るい調子で礼を述べる。

「ありがとう。面接があったから、どうなるかと思ったんだけど、何とかなって良かったわ」

 あぁ、そうか。私立は、どっちも筆記と別に面接があるって言ってたわね。ということは、山下くんも面接を受けたってことよね。星雪舎に合格したらしいし。

「あとは、私だけね。試験が残ってるのは」 

「そうね。第一志望の合格を目指して、頑張って。――はい、縁起物」

 どこか憂いを浮かべる小梅をよそに、英里はスクールバッグから五角柱のボール紙箱に入ったチョコレート菓子を渡す。箱には森をイメージさせるコミカルなイラストとともに「ゴリラのギャロップ」と書かれている。

 五角だから、か。この時期は、合格と掛けた駄洒落商品が多すぎるわ。うまいと思う物もあるけど、大半は、だだ滑りのお寒いギャグに終わってるのよね。

「ありがとう。私も頑張るわ。一応、滑り止めの南は受かってるから、ちょっとは気楽に臨めそうなの」

 小梅が受け取り、スクールバッグに仕舞いながら言うと、英里は後半からワントーン声を低くし、内緒話でもするかのように囁く。

「あっ、南は受かったんだ。……ねぇ。試験会場で、吉川くんを見なかった」

 英里につられて、小梅も周囲を憚るように小声で言う。

「男子とは、校舎が別だったから。受けたの、吉川くんも」

「そうなのよ。まぁ、駄目だったんだけどね。だから、かごめ総合で決まりよ」

 そっか。知ってる人間が居れば、南も悪くないと思ったんだけどなぁ。 

  *

「おかえり、小梅。首尾は、どう。手応えは、あるのかしら」

 ダイニングで半切りに入った酢飯を杓文字で混ぜながら、万里が期待を込めて問いかけると、小梅は顔を顰め、煩わしそうに答える。

「半々ってところね」

 これは当たり前だ。合格率は六割でも、合否が三対二で配分されるわけじゃない。必ず、受かるか落ちるかの二択でしかない。

「そうなの。まっ、結果を楽しみにしてるわね。今夜は、ちらし寿司よ」

 万里が落胆を隠しつつ、努めて愉快に振舞うのを、小梅は冷めた目で見ながら、棘のある口調で言い放つ。

「お祝いしてくれる気持ちは嬉しいけど、浮かれすぎよ、ママ。まだ私、進路が決まった訳じゃないんだからね」

「どうしたのよ。また学校で、何か言われたの」

 団扇で酢飯を扇ぎながら、万里が心配そうに言葉をかけると、小梅は次のように言い捨てて、ドタドタと足音を立てながら二階へ上がる。

「何でもないわよ。ほっといて」

 嫌になっちゃうなぁ。どうして、こんなに腹が立つんだろう。ママも、英里ちゃんも、吉川くんも、山下くんも。誰も、悪くないのに。


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