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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
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#182「おもてなし」【松子】

#182「おもてなし」【松子】


 一人で居られないが故に一人で居たいと思う人間と、一人で居たくないのに一人で居るしかない人間とでは、一緒に居ても気遣い合うだけで、おのおの一人で居るより余計に心身を消耗するだけだ。だけど。

「叔父さんいわく、幼稚園では、他の園児たちとうまく馴染めなかったそうです」

「なるほど。それで、お絵描きや積み木が好きなのね。安奈も、寿くんとお友達になる前は孤立しがちで、絵本を読んだり、お人形遊びをしてたりしてたのよ」

 松子の言葉に、奈々が反応を返すと、戸口で立ったまま控えている真白も軽く頷く。

 一人で居たくないのに一人で居るしかなかった人間が出会った場合は、元から友人に恵まれていた人間よりも、より強い結びつきを示す。

「そうでしたか。それなら、安奈ちゃんと寿くんは、お互いに相性が良いのではないでしょうか」

「そうよね。松子ちゃんも、そう思うでしょう」

 我が意を得たりとばかりに強く同調する奈々に、松子は困惑の表情を浮かべる。すると、松子が話の接ぎ穂を失ってるのに気付いた真白が、助け舟を出す。

「奥さま。そろそろ本題に入っては、いかがでしょう。そうでなくては、こちらへ移動した意味が、松子さまに、よく分からないのではないかと」

 言い出しにくいことを代弁してくれて助かります、真白さん。ここに連れて来られたときから、何の目的なのか、理解に苦しんでたんです。

「あぁ、そうね。いけないわ、私ってば。つい、前置きが長くなってしまって。ごめんなさいね。お喋りなくせに、なかなか核心を突かない性分なものだから。イライラさせちゃったかしら」

 口元に片手を添えながら奈々が言うと、松子は冷淡にならないよう注意しながら、端的に答える。

「いいえ。お気遣いなく」

 昔の私なら、「はい、そうです」と馬鹿正直に答えただろうけど、それでは角が立つだけで何の解決にならないことは、三十年近く生きてれば、自然と経験から判断できるもの。処世術が身についたのか、はたまた流されやすくなったのか。

「実は、人目が無いところで渡したいものがあってね。目を瞑って、片手を貸して」

 言われた通り、松子が瞼を閉じて片手を差し出すと、奈々は帯の内側からポチ袋を三つ取り出し、それを重ねて松子の手の平に置き、指を曲げて握らせる。

「はい、目を開いて良いわよ」

 松子は瞼を開け、手に握らされたポチ袋に驚いて奈々のほうを見ると、奈々は、悪戯っぽく無邪気に笑いながら言う。

「松竹梅、三人分よ。中身は一緒だけど、名前に因んでるから、その通りに渡してもらえると嬉しいわ」

「いや、あの、お気持ちは嬉しいんですけど。親戚でもありませんし、それに私と竹美は、もう成人してますから」

 奈々に返そうと松子はポチ袋を持った腕を伸ばすが、奈々は、それを押し返す。

「謙遜は美徳だけど、年長者からの好意には、素直に甘えておくものよ。それに、中身はお金じゃないから」

「えっ。何が入っているんですか」

「それを聞くのは、野暮でしょう。帰ってからの、お、た、の、し、み」

「はぁ。それも、そうですね。いただきます」

 松子は、顔に戸惑いを浮かべながらも、ポチ袋を持った両手を恭しく掲げて頂戴し、懐に仕舞う。それを見た奈々は、ニッコリと満足そうな表情を浮かべ、真白も、安堵の溜め息を漏らす。

 新年早々、サ、プ、ラ、イ、ズ。東京五輪は、来年なんだけどなぁ。


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