#181「迎春」【万里】
#181「迎春」【万里】
「お正月は、子供たちのほうが、大人より懐が暖かいでしょうね」
紋付袴姿の観音院が、被布を羽織った振袖姿の安奈や、一緒に遊んでいる寿たちを見ながら感慨深げに呟くと、万里も、それに同意を表する。
「そうかもしれませんね」
今年も元日から仕事に出ている二人に代わって、私と松子で寿くんと琢くんの面倒を見ていたら、お昼過ぎに安奈ちゃんが亀山家を訪ねてきてね。そして今は、観音院家の広い客間で、めいめいに遊ぶ子供たちの様子を眺めつつ、大人同士で歓談しているの。
「これで完成ね。――アレッ」
目隠しを外した安奈が、出来上がった変顔を見て首を捻ると、寿が笑いを堪えながら言う。
「僕は、もっと右だって言ったよ」
「おかしいわね。完璧なバランスだと思ったに。フフッ。今度は、寿くんの番よ」
口の端に笑みをこぼしながら、安奈は寿の目元に手拭いを巻いていく。寿は、安奈につられて笑いながら、なすがままに任せる。
「ハハッ。うまく出来るかな」
安奈と寿が福笑いで遊んでいる横では、昴と赤城が鋭く目を光らせながら、畳の上に散らばる絵札に注目している。
「笑う門には、福来る。わ」
「もらったー」
「させるかー」
青葉が字札を読み上げると、昴が絵札の上に手を下ろそうとする直前、赤城が畳すれすれに手を平行移動させ、派手に数枚を弾き飛ばし、その中から「わ」の札を取り上げる。
「ずるいぞ、赤城。私が先に見つけたのに」
「ヘヘン。こういうのは、札を取ったほうが勝ちなんだよ」
「童心にかえって遊んであげなさいとは言われましたけど、子供相手にムキになるなんて。大人げないですよ、赤城」
取った札を自慢げに昴に見せびらかす赤城と、それを悔しがる昴を見ながら、青葉は呆れていると、廊下と客間を隔てている襖が開く。
「決着は、まだ着いてないぞ、作楽」
「何回挑戦したって結果は同じよ、琢くん」
目の回りに丸を、頬にバツを墨で書かれた琢と、顔に何も書かれていない作楽が言い争いながら姿を現す。琢が持つ羽子板には、紫の鉢巻をした男性の、作楽の持つ羽子板には、簪を挿した女性の浮世絵が描かれている。
あらあら。リベンジマッチを申し込むのは良いけど、そのうち顔が真っ黒になっちゃうわよ、琢くん。
羽子板をぶんぶん振りながら主張する琢を見ながら、万里は微笑む。そして、ふと何かを思い出したかのように片手の指を頬に添え、観音院に聞く。
「そういえば、松子の姿が見えないわね」
「おや、気付きませんでしたか。つい先程、奈々と真白と一緒に、二階へ移動しただけですから、ご安心を」
「そうですか。それなら、良いんですけど」
お屋敷の中にいるのなら、心配ないけど。でも、何で二階へ行ったのかしら。




