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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
190/232

#180「学問と進め」【竹美】

#180「学問と進め」【竹美】


「三が日に勉強を休んだって、問題無いわよ。受かるときは、受かるんだから」

「万全の体制で臨みたいの。備えあれば憂い無しよ」

 だったら、正月二日目から無理しないで、ゆっくり羽根を伸ばせば良いのに。

 半纏を羽織り、額に鉢巻を巻いて鉛筆を走らせる小梅に、竹美は休憩を提案しているのだが、小梅は一向に手を休めようとしない。

「何で、そんなに焦燥感に駆られてるのよ。急がば回れよ」

「もぅ。やる気を削ぐなら、下に降りててよ。帰ってきたら、松姉に教えてもらうから」

 苛立たしげに言いながら、小梅は鉛筆を削り器に入れ、ゴリゴリと音を立てながらハンドルを回す。

 とうとう、戦力外通告ですか。呼び出しといて、お呼びでないとは。まぁ、国語や社会は、ともかく。数学や理科に関しては、お姉ちゃんのほうが分かりやすいかもね。

「分かった、分かった。ちゃんと教えるわよ」

「それじゃあ、ここの、最後の括弧に入る人物は」

 小梅は削り器のトレーを外し、削り滓を屑籠に捨てながら、問題集の一部を指差す。

「どれどれ」

 えーっと。「以上の出来事に、それぞれ最も関連が深い江戸幕府の将軍を、以下の肖像画群から一つずつ選び、その名前を答えなさい」か。関ヶ原の戦いが家康、参勤交代が家光、生類憐みの令が綱吉、享保の改革が吉宗、と。ここまでは、合ってるわね。

「大政奉還は、慶喜よ」

 竹美の答えに、小梅は不満げな表情をする。

「それは分かってるのよ。漢字が思い出せないから、聞いてるの」

 あら、そうですか。それは、失礼しました。

 竹美は、鉛筆を手に取り、欄外に慶と書き始めたが、七画目で手を止める。

 このまま比と書いたら違うってことだけは、よく分かってるんだけど。アレ。 

 鉛筆の消しゴム部分をこめかみに当てている竹美に対し、小梅は、失望したように、ため息混じりで言う。

「思い出せないなら、良いわ。大学生が大したことないのは、よく知ってるから」

 そう言って、小梅は再び黙々と問題集を解き進める。

 メディアが垂れ流す無責任な情報がソースなんだろうけど、情けないことに、言い返せないわ。さすがに分数や速度の問題を間違えることは無いけど、読めるけど書けない漢字は、年々増えてる気がする。

 竹美は、気まずそうに佇んでいると、ドアをノックする音が聞こえる。立ち上がった竹美がドアを開けると、松子が姿を現す。

「ただいま。あぁ、竹美も来てたのね。ちょうど良いわ」

「おかえり、お姉ちゃん」

「松姉、おかえり。ねぇ、分からない問題があるんだけど」

 小梅が問題集を片手に近付こうとすると、それを松子は片手で制し、鞄からポチ袋を取り出しながら言う。

「待って、小梅。その前に、二人に渡しておきたいものがあるの」

 お年玉かしら。小梅は、さておき。私は、あげる側だって言ってたのに。どういう心変わりよ。

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