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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
177/232

#167「朗報」【永井】

#167「朗報」【永井】


 一生懸命に振舞うのがダサいって、いつから思うようになったんだろう。

「やりたいことが色々あって、出来る範囲で何でもやってみようって思える竹美は、それだけで立派だと思うぜ。人事部も、見る目が無いな」

 永井は、自身の胸に顔を埋めて泣いている竹美に、そうやって声を掛けると、後頭部をポンポンと軽く叩いてなぐさめる。時折、鼻を啜る音が混ざっている。

 泣き止んだら、シャツを着替えよう。カピカピになりそうだ。

 永井が服の心配をし始めていると、ダイニングのドアを勢いよく開けて、長一が姿を現す。

「ドアは、静かに開閉しろ。何の用だ」

福音(エヴァンゲリオン)を授けに来ました」

「帰れ、ヨハネ。救世主もモビルスーツも、間に合ってる」

「次郎には言ってないよ。竹美ちゃんに言ってるんだよ」

「えっ、私ですか」

 永井の胸元から顔を離し、竹美が長一のほうを向く。長一は、満面の笑みで、角型二号の分厚い封筒を竹美に差し出す。差出人は、ナガイ不動産である。

「開けてごらん。きっと、良い知らせだから」

 竹美は封筒を受け取り、慎重に開けて中の書類を取り出すと、一枚目の文書を読み始める。

「先日は、当社の最終面談にお越しいただき、誠にありがとうございました。選考の結果、永井竹美様を当社社員として、平成三十年十月一日付けで採用することに決定いたしましたのでご連絡いたします。つきましては、ご提出いただく書類を同封して郵送いたしましたので、期限までにご返送くださいますようお願いいたします。ってことは、これは、つまり」

「採用内定通知だな。よく、ここまで辿り着いたな」

「素直に嬉しいって言ったらどうなのさ、次郎。――四月から、社員としてもよろしくね」

「はい。――あぁ、また涙が」

 竹美が指で目元を拭おうとすると、永井はシャツを脱ぎ、軽く畳んで涙を吸わせ、そのまま竹美に渡す。それと引き換えに、竹美が持っていた封書を預かる。

「悪いけど、そいつを洗濯籠に入れて、俺の部屋のクローゼットから違うシャツを出してくれ」

「はーい。すぐに持ってくるわ」

 竹美はシャツを受け取り、ダイニングをあとにする。 

 結局、俺も竹美も、臆病者同士だったんだろうな。傷付くこと、失うことが怖くて、一人では前に進めずにいただけなんだ。

  

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