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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
172/232

#162「混ぜ込み」【長一】

#162「混ぜ込み」【長一】


 数多の和食を差し置いて、まず初心者が習う料理が異国発祥のカレーライスだという不思議な国、日本。インド人も驚愕するクールジャパン。

 揃いのティーシャツを着て、長一と竹美は調理に勤しんでいる。ティーシャツの後ろには、「親切、丁寧、地域密着のナガイ不動産」という筆文字が躍っている。二人とも、サイズが少し合っていない。

「何で、俺の家で料理教室をせねばならないんだ。兄貴の家で良いだろう」

「素敵なアイランドキッチンをお持ちだから。彼女がいじらしい努力をしてるんだから、協力してあげるのは彼氏として当然だよ」

「勝手に決めるな」

 ダイニングで待たされている永井は、長一に不平をこぼすが、長一は馬耳東風とばかりに右から左へ受け流し、キッチンへ戻る。

「豚肉は、素揚げ出来たかい」

「はい。こんな感じで、どうでしょう」

 ペーパータオルを敷いたバットには、狐色に揚げあがった豚肉が小山になっている。

「うん。バッチリだよ。飲み込みが早いね。それじゃあ、それを、さっき揚げた筍や玉葱と一緒に煮ていこうか。フライパンで、このソースを煮立たせてから、材料を投下していってね」

 そう言いながら、長一は小さめのボウルに混ぜ合わせた液体を指し示し、フライパンをコンロに載せる。

「こっちは、いつ入れるんですか」

 そう言って竹美は、さっき購入した缶を指差す。

「あぁ、忘れてた。いつもは入れないんだ」

 長一は、プルトップを持ち上げて缶を開けながら、竹美に耳打ちする。

「実はね。次郎は、パイナップルが苦手なんだ。特に、酢豚に入ってるのは敬遠するんだ」

 ボウルとゴムベラを持ったまま、竹美は動きを止め、驚いた表情をしつつ、小声で言う。

「えっ、そうなんですか。あぁ、言われてみれば、これまで食卓に上ってなかったかも」

「意外と好き嫌いが多いんだよ。でも、新妻のあーんで食べさせたら、苦手を克服できるんじゃないかな」

「それは、反応が楽しみですね」

 企みを隠しきれない様子で、竹美と長一は見つめ合って不敵な笑みを浮かべる。

  *

「さて、問題です。竹美ちゃんは、酢豚と春巻きとチンジャオロースを、長一くんは、麻婆豆腐、八宝菜、炒飯、皿うどんをテーブルに並べました。あわせて、何品の料理が出来上がったでしょうか」

「先生、わかりません」

「指が足りません」

「小学校から、やり直せ。ざっと十人前はあるぞ」

「満漢全席よ。遠慮せずに、好きなだけ食べて」

「そうそう。冷めないうちに」

「絶対、残る。断言する」

 腕を組んだまま、箸を手にしようとしない永井。竹美と長一は顔を見合わせ、竹美はエプロンのポケットから携帯を取り出す。

「もう、仕方ないわ。応援を呼びます」

「誰を呼ぶの」

 携帯を耳に当てている竹美に、話しかける長一。竹美は、チラッと永井を見たあと、長一に向かって答える。

「食わず嫌いを直す、良いキッカケになる人物ですよ」

 誰だろう。ブロメラインの役割を果たすのは。


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