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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
167/232

#157「カルメン」【小梅】

#157「カルメン」【小梅】


 高校は義務教育じゃないから、どこに進学するか、よく考えなさいって言うけど、正直、どれくらい大事なことなのかピンと来ないのよね。

 校内放送でビゼーの組曲が流れる中、音楽準備室で、英里と小梅は、メトロノームや楽譜を棚に戻したり、トライアングルやカスタネットの数が足りているかチェックしたりしながら、手だけでなく口も動かしている。

「小梅ちゃんは、もう三者面談が終わったんだ」

 ママが、面談期間の初日以外は、パートとかぶってるっていったからね。

「そうよ。英里ちゃんは、まだなのね」

「私は、明日なの。それで、第一志望は、どこにしたの」

「東高校にしたの。松姉が通ってたんだけど、単位制で、二年生からは好きな教科に特化した時間割に出来るんだって」

 その代わり、入試では三教科必須なのよね。南なら英語と二教科だから、国語と社会を選んで、理科と数学を外せるんだけど。

「そうらしいわね。でも、体育だけは必須だって聞くわよ」

 それは、初耳だわ。松姉は、そんなこと言ってなかったのに。体育が嫌いなのを知ってて、わざと言わなかったのかな。

「えっ、そうなの。帰ったら、確かめてみよう」

「そうしたほうが良いわ。私のは、又聞きだから。――それじゃあ、南は第二志望なのね」

「えぇ。偏差値は高くないけど、卒業生は意外と良い大学に進学してるって、竹姉は言ってた」

「へぇ、そう。――こっちのチェックは終わったんだけど、そっちは」

「過不足なし」

「それじゃあ、音楽室に戻ろっか。――ちゃんと掃除したかしら、吉川くん」

「山下くんが居るから、大丈夫なんじゃないかな」

「それも、そうね」

 英里と小梅は、鉛筆をクリップに挟み、バインダーを抱えて準備室を出る。

  *

「掃除機をかけて、窓を閉めたら、他にすること無いな。調律でもしようか。それとも、解体ショーか。あれ、蓋が渋くなってる」

 グランドピアノの椅子に座り、鍵盤カバーを持ち上げようとする吉川。

「冷凍マグロか。鍵が掛かってるんだろう。吉川みたいな奴が、悪戯しないように」

「チェッ。俺の絶対音感を活かすチャンスだったのに。――滝廉太郎に、ダリ髭でも書き込んでやろうかな」

 吉川は椅子から立ち上がり、譜面台にある鉛筆を持つ。すかさず、山下が吉川の手首を叩き、落とした鉛筆を拾い上げる。

「ミにシャープがあると思ってた人間に、音感があるか。――その肖像画は意外と高いんだから、変なことをするな。二十四枚か、三十六枚セットで、一万円以上するんだぞ」

「えっ。ボッタクリじゃないか」

「人聞きが悪い言いかたをするな。公正価格だ。たぶん」

「そこは言い切れよ。デクレッシェンドするな」

 吉川の大声に、山下は片耳を手で塞ぎ、顔を顰めて言う。

「うるさい。フォルテッシモで吼えるな。メゾピアノで話せ」

「おっ、ボーイズトークか。いいね。山下は、胸派か、尻派か」

「何だ、その頭の悪い質問は。どこが胸だか尻だか分からないような女に惚れてるくせに」

「松本を侮辱するなよ。あれで痩せれば、いい線いくぜ。俺としても、午後の甘い間食と、夜の塩辛い夜食を止めさせたいと思ってるさ。わかっちゃいるけど、やめられないらしいけどな」

「午後は三、四時間に一回の燃料補給が不可欠なのか。燃費が悪いな。新生児の授乳と一緒だ」

「まぁ、今のままでも、充分、魅力的だけどな。安産型だぜ」

「どこを見てるんだよ。昭和の爺さんか」

「ということは、山下は胸派なのか。薄着になると、差がつくもんな」

「別に、俺は、女子を見た目で判断してないからな」

「隠すのは良くないぞ、むっつりスケベ。鶴岡のタワワな双丘に目が釘付けになってるのは、お見通しだ」

「他人を変態じみた扱いするんじゃない」

「掃除中は、エアコンを使えないからな。濡れ透けで、ラッキーチャンスがあるかもよ」

「俺は、お前と違って、そんな嫌らしい目で女子を見てない」

「どうだかなぁ。――おっ。向こうも終わったみたいだぜ」

「そうみたいだな」

 吉川と山下はグランドピアノの側を離れ、バインダーを抱えて出てきた二人に歩み寄る。

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