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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
162/232

#152「かけ橋」【松子】

#152「かけ橋」【松子】


 いつの間にか、窓の外には晴れ間が広がっている。帰りは傘を差さずに済みそうだ。

「いま、大学生よね」 

「はい。農学部の三年っす。ゼミのあとには、よく反省会と称して鍋を囲んだり、出前を取ったりしてるんすよ。まぁ、明け方まで、どうやったら彼女が出来るかとか何とか、下らないボーイズトークを喋ってるだけなんすけどね。ここ、駅から近いんで、たまり場に良いらしくって。後片付けが大変なんで、困ってるんすけど」

 口では困ってると言ってるけど、満更でもないって感じね。学内でも、慕われてそう。敵を作らないタイプね。

「ということは、今は、彼女は」

「フリーっすよ。自分で言うのもアレなんすけど、良い人止まりらしくて」

 そんなところね。気さくだから、たまに一緒に遊ぶには良いけど、真剣に付き合うのはチョットってところかしら。私が言えた口じゃないんでしょうけど。

「ねぇ。秋子ちゃんのことは、そういう目で見られないのかしら」

 松子が声を潜めて囁くと、早川は仰け反りながらブンブンと頭を振って否定して言う。

「とんでもない。一般庶民の俺には、高嶺の花っすよ。大学だって、あしながおじさんから奨学金を借りて通ってるんすよ」

 うーん。どうやら、嘘では無さそうね。てっきり、そういう目的で接触してるんだと思ってたのに。読みが外れたか。

「下心も無しに、手を差し伸べるかしら」

「困ってたら、自分に出来る範囲で助けるのは、人間として当たり前っしょ」

 詮索は止めよう。現代には稀にみる純朴な育ちをしたようだ。

「そうね。でも、もし、秋子ちゃんが早川くんに気があるとしたら、どうするの。それでも、黙っていられるの」

「そりゃあ、その仮定が本当なら、あわよくば、という気持ちになるっすよ。俺も、男っすからね。でも、無理強いはしたく無いんすよ」

 お人好しだこと。そんなんじゃ、これから先も、誰かに良いところを横取りされ続けて、良いように利用されっぱなしになっちゃうわよ。

「秋子ちゃんのこと、好きじゃないの」

「好きっすよ、俺は、高峰さんのことが。――あっ」

 早川が松子から視線を逸らすと、そこには頬を赤く染め、ポーチを持ったままモジモジと佇む秋子の姿があった。

 いけない。恋愛談義に白熱していたせいで、秋子ちゃんが戻ってるのに気付かなかったわ。

「あっ、いや、その、これは、話の流れで。別に、気持ちに偽りがあるとかではないっすけど、でも、いやらしい目で見てたとかでは」

 おろおろと狼狽し、しどろもどろに弁解する早川に対し、松子はピシャリと言い放つ。

「何をグズグズ言ってるの。率直に気持ちを伝えなさい」

「はい。――好きです。付き合ってくださいっ」

 立ち上がって頭を深く下げ、片手を差し出す早川。一瞬、時が止ったかのような空気が流れたあと、秋子は躊躇いがちに早川の手を握り返し、消え入りそうな小声で言う。

「はい。私でよければ、喜んで」

 ホッと安堵の表情を浮かべ、目を合わせて無言で微笑む早川と秋子。松子は、それを興味深く観察している。

 さぁて。天然娘と純朴青年に芽生えた恋は、これから、どう変化していくのかしら。他人の恋路を見守ってる場合じゃないかもしれないけど、何だか面白くなりそうだわ。

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