#015「アニマル」【小梅】
#015「アニマル」【小梅】
宿題は、歳を経るごとに難しくなる。小学生までは「何々しましょう」という提案だったのに、中学生になると「何々しなさい」という命令になる。でも、松姉にしてみれば、自分で課題を探さなくて良いだけ、社会人よりずっと楽なのだとか。大人になりたくないなぁ。
小梅が市立図書館の児童書コーナーで悩んでいると、英里が小梅に近付き、小声で話しかけた。
「小梅ちゃんも居たんだ。何の本を探してるの」
「あぁ、英里ちゃん。なぞなぞの本を探してるんだけど、古い本や対象年齢が高い本ばっかりで」
解くのと創るのとは大違い。なぞなぞを考案するのは一苦労。クイズ作家にはなれそうにない。
「なるほど。お嬢さまと助手くんに、謎解きをさせようという魂胆ですな」
たしかにオジョタンの設定に近いけど、二人は温泉地や別荘地で殺人事件を推理しないと思うわ。
「まぁ、そんなところ。でも、ぴったりの本が無くて」
「どれどれ」
英里は本棚から一冊抜き、パラパラとページをめくる。
「お仕事なぞなぞ。第一問。綺麗好きで、いつもショーウィンドーを磨いてる店は」
「洋服屋。寿くんは、ブティックやテーラーに行ったこと無いだろうから、ピンと来ない思うわ」
「ショッピングモールにファストファッションのチェーン店があるもんね。第二問。頭に『お』を付けると混乱する店は」
「八百屋。これも同じような理由よ」
「商店街に行けば精肉店と生花店はあるけど、あとはシャッターが開いてるのを見たこと無いわね。第三問。飛行機乗りの中で、お洒落に気を遣う人は」
「副操縦士。飛行機が好きなら知ってるだろうけど、そうでないなら難しいわ」
「たしかに、乗り物や戦隊ヒーローに夢中になるタイプでは無さそうだったわね」
小梅は別の本を棚から抜くと、適当にページをめくる。
「今度は私から出題するわ。なぞなぞ暮らし。第一問。上は大水、下は大火事、なーんだ」
「お風呂でしょう。でも、いまどき釜で焚く家は無いわよ。自動で湧くのが当たり前だもの」
「そうなのよ。第二問。取って回して掛けるものは、なーんだ」
「電話かしら。昔の映画やドラマに出てくるような、プッシュフォンじゃなくて、ダイヤル式の」
「正解。第三問。返って来ると半分になってるものは」
「うーん、何だろう。答えは」
「往復葉書。何でもインターネットで申し込むようになってから、すっかり使われなくなってるわよね」
本を閉じ、棚に戻す小梅と英里。
「そうなると、動物なぞなぞが無難じゃないかしら」
「動物か。英里ちゃん、何か知ってるの」
「そうね、たとえば。『く』が嫌いな動物は、スカンク。正午になると驚く鳥は、アヒル。なんてのがあるわね」
「へぇ。そういうの、良いわね」
そうか。動物なら、時代に左右されること無いし、わりと簡単な問題が多そうね。




